中小企業のDX、何から始める? ― 経産省の手引き2025と"ひとり情シス"の現実から考える

経済産業省が2025年3月に公表した「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」。この手引きには、興味深いメッセージが書かれています。

「経営規模が小さく経営者の判断が迅速な中堅・中小企業等の方が新たな取組を行いやすく、変革のスピードが速く、効果も出やすい」

DXは大企業だけの話――そう思っている経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし経産省の見解は真逆です。中小企業こそ、DXの恩恵を受けやすいと言っているのです。

一方で、現場の実態はどうでしょうか。私は中小企業向けのIT支援を行う中で、「DXどころか、日々のIT運用すら回っていない」という声を数多く聞いてきました。PCが壊れたら誰に相談すればいいかわからない。セキュリティ対策は何をすればいいのかわからない。IT担当者は総務と兼任で、本業の合間に対応している――いわゆる 「ひとり情シス」 の状態です。

本記事では、経産省の手引き2025のポイントを整理しながら、中小企業がDXの第一歩をどう踏み出せばいいのか、IT支援の現場から見た視点も交えてお伝えします。

DXの本質 ― ツールを入れることではなく、経営を変えること

まず押さえておきたいのは、DXの定義です。手引き2025では、DXを次のように表現しています。

顧客視点で新たな価値を創出していくために、ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組むこと。単にデジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、企業経営の変革そのもの。

― 経産省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」

ここが最も重要なポイントです。「AIを使ってみよう」「新しいシステムを入れてみよう」と手段から入ってしまうと、何のためにやっているのかわからなくなり、中途半端に終わるケースが後を絶ちません。

手引きでは、経営者に求められるのは「目指すべき将来を描き、その実現のために解決すべき課題は何かを明確にし、そのためにどのようにデジタル技術を活用していくか」という順番で考えることだと明記されています。

つまり、DXの出発点は「ツール選び」ではなく 「経営課題の整理」 なのです。

💡 IT支援の現場から

IT支援の現場でも、最初にやるべきことは同じです。いきなりツールの話をするのではなく、まず自社のIT環境の現状を把握し、何が課題なのかを整理する。経営者と対話しながら「本当に困っていること」をあぶり出す。このプロセスを丁寧に踏むかどうかで、その後の成果が大きく変わります。

DXの4段階プロセスと「ひとり情シス」の壁

手引き2025では、DXを4つの段階で進めることが推奨されています。

  • Step 1:意思決定 ― 経営者がリーダーシップを発揮し、将来の経営ビジョンとDX戦略を策定する
  • Step 2:全体構想・意識改革 ― 社内の関係者を巻き込み、まずは身近な部分でのデジタル化から始める
  • Step 3:本格推進 ― 業務のデジタル化を本格的に進め、蓄積されたデータを分析・活用する
  • Step 4:DX拡大・実現 ― 顧客接点やサプライチェーン全体にデジタル変革を展開する

この4段階は理想的なプロセスですが、中小企業の現場にはそれぞれの段階に「壁」があります。

Step 1の壁: 「IT=コストセンター」の認識から抜けられず、経営ビジョンにITが組み込まれない。

Step 2の壁: IT担当が1人(または兼任)で、社内を巻き込む余裕がない。

Step 3の壁: オンプレミスとクラウドが混在し、データが散在している。

Step 4の壁: 日常の運用保守で手一杯で、戦略的な取り組みに時間が使えない。

これらの「壁」のすべてが、外部の情シスパートナーがいれば解消・軽減できる問題であることに注目してください。手引きが繰り返し強調する「伴走支援者の活用」は、まさにこの壁を乗り越えるための現実解です。

日常のIT運用を外部パートナーがカバーすることで、社内リソースをDX推進に振り向けられる。この構造が、中小企業のDXを現実的にするための第一歩です。

成功の7つのポイント

手引き2025では、DX推進に成功した企業に共通する7つのポイントが挙げられています。

  1. 経営者がリーダーシップを取る ― 「情シスに丸投げ」では変革は起きない
  2. 中長期的な視点を持つ ― 短期ROIだけで判断しない
  3. 身近なところから始め、成功体験を重ねる ― 紙帳票のデジタル化、勤怠クラウド化など
  4. データを分析・活用し新たな価値を創出する ― 蓄積したデータを経営判断に活かす
  5. DX推進過程の中で人材を育成する ― 外部採用だけでなく、既存社員のリスキリング
  6. 継続的に変革を続け、取組を拡大する ― 一度の導入で終わらせない
  7. 支援機関による伴走支援を活用する ― ITベンダー、ITコーディネーター等の外部リソース

特に注目したいのは、7番目の「伴走支援の活用」です。手引きはこのポイントを繰り返し強調しており、DX推進は「自社だけで頑張るもの」ではなく、「適切なパートナーと一緒に進めるもの」だという姿勢が明確です。

DXセレクション2025に学ぶ実践事例

手引きに統合されたDXセレクション選定企業から、中小企業のDXの実例を紹介します。

後藤組(建設業・新潟県)― 「全員DX」の実現

グランプリを受賞した後藤組は、建設業でありながら「全員DX」をテーマに掲げ、ノーコードツールを活用して現場社員が3,000件超の業務アプリを開発しました。結果として人時生産性の向上と残業削減を実現しています。

近藤商会(事務用品販売・北海道)― ビジネスモデルの転換

準グランプリの近藤商会は、テレワークやWebマーケティングを活用し、従来の訪問営業からインサイドセールスへと大胆に転換。顧客を全国に展開し、売上70%増を達成しました。

両社に共通しているのは、最初から壮大な計画を立てたのではなく、身近な課題の解決から始めて、段階的に取り組みを拡大していったということです。

💡 IT支援の現場から

近藤商会の事例は、DXが「業務効率化」にとどまらず「ビジネスモデルの変革」まで到達できることを示しています。TeamsやSharePointを活用したオンラインでの顧客対応、CRMによる顧客管理の一元化など、Microsoft 365のエコシステムをフル活用することで、地方の中小企業でも全国を商圏にできる可能性を証明しました。

Microsoft 365がDXの「最初の一歩」になる理由

ここで1つ、IT支援の現場から見た重要な事実をお伝えします。

多くの中小企業がすでにMicrosoft 365を契約しています。しかし、実際に使っているのはメール(Outlook)とWord、Excelだけというケースが大半です。これは非常にもったいない状態です。

Microsoft 365には、DXの基盤となるツールがすでに含まれています。

SharePoint / OneDrive ― ファイルサーバーの代替。ペーパーレス化と情報共有の基盤になります。手引きの「身近なところから始める」に直結する施策です。

Teams ― 社内コミュニケーション基盤。部門間の情報共有とリモートワークを実現します。

Power Automate ― 「申請→承認→通知」などの定型業務を自動化できます。プログラミング不要で業務のデジタル化が可能です。

Power Apps ― ノーコードで業務アプリを作成でき、現場社員による業務改善を促進します。後藤組の事例とまさに同じアプローチです。

Power BI ― Excelのデータをダッシュボード化し、データに基づく経営判断を支援します。

Copilot ― AI機能により、文書作成、メール返信、データ分析、会議要約をアシストします。

💡 IT支援の現場から

「すでに契約しているMicrosoft 365を使い倒す」ことが、最もコストをかけずにDXを始める方法です。新しいツールを追加導入する前に、今持っているツールのポテンシャルを最大限に引き出す。これが、IT支援の現場で私たちが最初にお伝えしていることです。

DXの第一歩は「相談相手を持つこと」

手引き2025のメッセージを一言でまとめるなら、**「DXは中小企業にこそチャンスがある。ただし、一人で進める必要はない」**ということに尽きます。

「何から始めればいいかわからない」こと自体は、まったく普通のことです。大企業でも専門のチームを組んでDXに取り組んでいるのですから、中小企業の経営者が一人で全てを判断できなくて当然です。

大切なのは、IT環境の現状を把握し、自社の経営課題を整理し、適切なパートナーと一緒に一歩ずつ進めていくことです。

まずは「自社のIT環境は今どうなっているのか」「何から手をつければいいのか」を整理するところから始めてみませんか?

活用できる施策・リソース

手引き2025で紹介されている施策やリソースも、ぜひ活用してください。

  • デジタルガバナンス・コード 3.0 ― DX推進に向けた全体的な考え方や取組の方向性を示したガイドライン
  • DX認定制度 ― DX推進の準備が整ったことを経済産業大臣が認定する制度
  • DX支援ガイダンス ― 支援機関による伴走支援の進め方をまとめたガイド
  • DXセレクション ― 中堅・中小企業のDX優良事例を選定する取組(2025年は15社選定)

本記事は、経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(DXセレクション2025選定企業レポート)」(2025年3月)の内容をもとに作成しました。手引きの全文は経済産業省のWebサイトからダウンロードできます。

あわせて読みたい

📊Consult365 — IT戦略コンサルティング

IT戦略の策定からSaaS棚卸し、コスト最適化まで。経営に直結するIT課題を専門家が支援。

情シスのお悩み、ご相談ください

専門スタッフが貴社の課題に合わせたご提案をいたします。

メールでのお問い合わせはこちら →
60分無料相談