【IT PMI連載 第9回】SaaS棚卸しと業務アプリケーション統合の進め方
テナント統合、認証基盤の統合が完了したら、次はSaaS・業務アプリケーションの棚卸しと統廃合です。
中小企業でも、1社あたり20〜50種類のSaaSを利用しているケースは珍しくありません。2社が合流すれば、同じ用途のツールが重複し、ライセンスコストの二重化が発生します。さらに、「どちらの会社のツールに寄せるか」は、社員の日常業務に直結するため、慎重な判断が必要です。
第9回では、SaaS棚卸しの方法と業務アプリケーション統合の実務を解説します。
なぜSaaS棚卸しが重要なのか
M&A後のSaaS環境には、3つの問題が潜んでいます。
コストの二重化。 Slack と Teams、Box と OneDrive、Asana と Jira——同じ用途のSaaSに二重に課金し続けている状態です。月額では小さく見えても、年間で積み上げると数百万円の差になります。
セキュリティの死角。 IT部門が把握していないSaaS(シャドーIT)がある場合、アクセス制御やデータ保護が及ばない領域が存在します。特に買収先のシャドーITは、買収元のIT部門からは見えません。
業務の非効率。 同じ情報が2つのツールに分散し、「あのデータはどこにある?」が頻発します。
ステップ1:両社のSaaS一覧を作成する
まず、買収元と買収先が利用しているSaaS・クラウドサービスを網羅的にリストアップします。
情報収集の方法
契約ベース: 経理部門からSaaS関連の請求書・クレジットカード明細を取得します。最も確実な方法です。
技術ベース: Entra ID / Oktaのエンタープライズアプリケーション一覧、Google WorkspaceのOAuth連携アプリ一覧を確認します。SSO連携されているSaaSはここで把握できます。
ヒアリングベース: 各部門に「業務で使っているWebサービス」をヒアリングします。個人契約のSaaSやフリープランのツールはこの方法でしか把握できません。
リスト化する項目
各SaaSについて、以下の情報を整理します。
- サービス名、ベンダー名
- 用途(コミュニケーション、ファイル共有、プロジェクト管理、CRM等)
- 契約形態(年契約 / 月契約 / 個人契約)
- ライセンス数、月額 / 年額コスト
- 契約更新日(解約のタイミングに影響)
- 管理者(誰がAdmin権限を持っているか)
- SSO連携の有無
- データの所在(顧客データ、業務データの格納有無)
ステップ2:用途別に分類・比較する
SaaS一覧が完成したら、用途別にグルーピングし、2社間で重複しているものを特定します。
よくある重複パターン
コミュニケーション: Slack vs Microsoft Teams — 最も議論が紛糾しやすい領域です。
ファイル共有: OneDrive / SharePoint vs Google Drive vs Box — データ移行の工数が大きい領域です。
プロジェクト管理: Asana vs Jira vs Notion vs Backlog — 各チームの好みが分かれやすい領域です。
CRM / SFA: Salesforce vs HubSpot vs スプレッドシート管理 — 営業プロセスに直結するため慎重な判断が必要です。
経費精算: freee vs マネーフォワード vs 楽楽精算 — バックオフィス統合の一部として扱います。
ステップ3:統廃合の判断基準
どちらのツールに寄せるかを判断する際、以下の基準を使います。
利用者数。 より多くの社員が使っているツールの方が、移行コスト(教育コスト含む)が低くなります。
機能要件。 業務要件を満たしているかどうか。統合後の組織規模で必要な機能を備えているか確認します。
コスト。 ライセンス単価 × 統合後の利用者数で比較。年間契約の残存期間も考慮します。
既存連携。 他のシステムとの連携(API、SSO、自動化)が構築されている場合、切り替えコストが大きくなります。
データの移行性。 データをエクスポート / インポートできるか。移行ツールが存在するか。
ステップ4:移行計画を策定する
統廃合の方針が決まったら、具体的な移行計画を立てます。
優先順位の考え方
契約更新日が近いものから。 次の更新タイミングで解約できるよう、逆算してスケジュールを組みます。
利用者が少ないものから。 影響範囲が小さいSaaSで移行プロセスを練習し、ノウハウを蓄積してから大規模な移行に進みます。
データが少ないものから。 データ移行の工数が小さいものを先に処理し、成功体験を積みます。
移行の実行手順(SaaS1つあたり)
- 移行先ツールでのアカウント準備
- データ移行(エクスポート → インポート、または移行ツール利用)
- ユーザーへの案内・操作説明
- 並行運用期間の設定(2〜4週間)
- 旧ツールのアクセス制限(読み取り専用化)
- 旧ツールの解約
ステップ5:コスト削減効果を可視化する
SaaS統廃合の結果、削減されたコストを数字で経営層にレポートします。これはIT部門の「成果」として非常にわかりやすく、次の予算獲得にもつながります。
レポートに含めるべき項目は、廃止したSaaS名と月額コスト、年間削減額の合計、統合に要した工数とコスト、ROI(投資対効果)です。
注意:「残すべきSaaS」もある
統廃合の際、「重複しているから廃止」と機械的に判断すると失敗します。
部門固有の専門ツール。 経理が使う会計ソフト、デザインチームが使うFigma、エンジニアが使うGitHubなど、特定の職種に不可欠なツールは統廃合の対象外です。
データロックインされているツール。 長年蓄積されたデータがあり、エクスポートが困難なツールは、無理に移行するよりも併存させる判断が合理的な場合もあります。
まとめ
SaaS棚卸しと統廃合は、IT PMIにおける「コスト効果が最もわかりやすい」領域です。地道な作業ですが、確実にコスト削減と業務効率化につながります。
次回(最終回)では、IT PMI完了後の「運用体制」について、統合を定着させるための仕組みづくりを解説します。
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