【IT PMI連載 第5回】IT PMIの予算と体制づくり ― 経営層を巻き込む方法

IT PMIは「やらなければならない」と分かっていても、予算と人的リソースが確保できなければ進みません。

M&AのディールクローズまでにIT統合の予算が計上されていないケースは非常に多く、統合を担当するIT部門(あるいは「なんとなくIT担当」の社員)が、後から予算を確保しようとして苦労するパターンが頻発します。

第5回では、IT PMIの予算の考え方と、経営層を巻き込んで体制を構築する方法を解説します。

IT PMIにかかるコストの構造

IT統合のコストは、大きく4つの領域に分かれます。

1. ライセンス・サービスの二重コスト

統合完了まで、買収元・買収先で同じ用途のSaaSに二重課金が続きます。Microsoft 365 と Google Workspace の併用、Slack と Teams の併用、異なるEDR製品の併用など、月額で数十万〜数百万円のムダが発生します。

ポイント: 二重コストの総額を「統合が1年遅れた場合」で試算すると、経営層への説得材料になります。

2. 移行・構築の技術コスト

テナント統合、データ移行、認証基盤の再設計、ネットワーク統合などの技術的な作業コストです。社内に対応できる人材がいない場合は、外部パートナーへの委託費用が発生します。

3. プロジェクト管理コスト

統合プロジェクト全体のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)コストです。スケジュール管理、リスク管理、ステークホルダーとの調整、ドキュメント作成などの工数です。

4. 教育・定着コスト

新しいツールやルールへの移行に伴う、社員向け説明会、マニュアル作成、ヘルプデスク対応の増加分です。見落とされがちですが、統合の「定着」を左右する重要なコストです。

経営層への説明:3つのフレーム

IT部門から経営層へIT PMIの予算を申請する際、技術的な詳細を説明しても伝わりません。以下の3つのフレームで整理すると効果的です。

フレーム1:「やらないコスト」を可視化する

統合しない場合に発生する年間コスト(ライセンス二重化、運用の非効率、セキュリティリスクが顕在化した場合の損害想定額)を数字で示します。

例えば、SaaSの二重課金が月額50万円 × 12ヶ月 = 600万円。これに対して統合プロジェクトの費用が300万円なら、「投資は半年で回収できる」と説明できます。

フレーム2:リスクを「事業インパクト」で語る

「セキュリティリスクがあります」ではなく、「買収先のアカウントが管理されておらず、不正アクセスが発生した場合、顧客データの漏洩と信用失墜につながります。対策費用はインシデント後の対応費用の1/10です」と具体的に説明します。

フレーム3:M&Aのシナジー実現にはITが必須

「事業シナジーを実現するには、2社の社員が同じ情報にアクセスし、同じツールでコミュニケーションできる環境が必要です。IT統合はそのための基盤投資です」——経営の言葉でITの必要性を伝えます。

IT PMIの体制パターン

パターン1:社内主導 + スポット外注

社内にIT担当者(情シス)がいる場合。統合の方針・計画は社内主導で、技術的な移行作業やセキュリティ設計をスポットで外注します。

メリット: コスト抑制、社内事情に詳しい担当者が調整役になれる リスク: 担当者の負荷が集中、通常業務との兼務で進捗遅延

パターン2:外部PMO + 社内協力者

統合プロジェクトのPMOを外部パートナーに委託し、社内からは情報提供と意思決定の協力者をアサインします。中小企業のM&Aでは、このパターンが最も現実的です。

メリット: 専門知識を持つPMOが全体をリード、社内の負荷を最小化 リスク: 外部委託費用の発生、社内事情の理解に時間がかかる場合がある

パターン3:フルアウトソーシング

IT統合の計画策定から実行、定着支援までを一括で外部に委託するパターンです。IT担当者がいない会社の買収、または複数社を同時に統合する場合に有効です。

メリット: 社内リソースへの影響を最小化、専門性の高い作業を確実に実行 リスク: コストが最も高い、ベンダー依存のリスク

予算超過を防ぐ3つのルール

ルール1:スコープを明確に区切る

「全部一度に統合する」のではなく、フェーズを分けてスコープを明確にします。フェーズ1は「メール統合とセキュリティ基盤」、フェーズ2は「ファイルサーバーとSaaS統合」のように区切ることで、予算の予見可能性が高まります。

ルール2:変更管理プロセスを設ける

統合プロジェクトでは「当初想定していなかった作業」が必ず発生します。追加作業が発生した場合の承認プロセスを事前に決めておくことで、なし崩し的な予算膨張を防ぎます。

ルール3:バッファは20%確保する

IT統合では、データ移行のやり直し、互換性問題、想定外のライセンス契約など、予測困難な追加コストが発生します。見積もりの20%をバッファとして確保しておくことを推奨します。

まとめ

IT PMIの予算と体制は、プロジェクト開始前に確保しておくことが理想です。M&Aのディールプロセスの中でIT統合の予算を織り込めるよう、早期に経営層との対話を始めましょう。

次回は、統合の中でも最もセンシティブな「セキュリティポリシーの統一」について解説します。


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