M&A後のMicrosoft 365テナント統合事例 ― 2社のIT環境を6ヶ月で一本化した進め方

M&Aが成立した後、IT環境の統合はどのように進めればよいのか。特にMicrosoft 365のテナント統合は、メール・ファイル・Teams・アカウント管理に影響するため、全社員の業務に直結するプロジェクトです。

本記事では、M&A後にMicrosoft 365テナントを6ヶ月で統合した事例を紹介します。

※本記事は複数の支援実績をもとに構成した再構成事例です。特定の企業の事例ではありません。

プロジェクト概要

項目内容
譲受側(A社)ITサービス業、従業員120名、Microsoft 365 E3
譲渡側(B社)Webマーケティング業、従業員40名、Microsoft 365 Business Standard
M&Aスキーム株式譲渡(B社はA社の100%子会社化)
IT統合の目的テナント一本化によるコスト削減、セキュリティポリシー統一、グループ内コラボレーション促進
プロジェクト期間6ヶ月

統合前の状態

A社(譲受側) は、Entra IDでアカウント管理を行い、条件付きアクセスとMFAを全社に適用済み。SharePoint Onlineでファイル管理し、Teamsを社内コミュニケーションの中心に据えた運用体制が整っていました。

B社(譲渡側) は、Microsoft 365 Business Standardを利用していましたが、Entra IDの条件付きアクセスは未設定。MFAも管理者アカウントのみ。ファイル共有はOneDriveの個人フォルダが中心で、SharePointはほぼ未利用。Teamsは一部チームのみ利用という状態でした。

この2社のIT環境を1つのテナントに統合するプロジェクトが開始されました。

フェーズ1:アセスメント(1ヶ月目)

実施内容

B社のIT環境を網羅的に調査しました。具体的には、Microsoft 365の利用状況調査(ライセンス割当、メールボックスサイズ、OneDriveの利用量)、Entra IDの設定状況(条件付きアクセス、MFA、デバイス管理)、利用中のSaaS一覧と契約状況の棚卸し、ドメイン・DNS設定の確認、セキュリティポリシーのギャップ分析です。

発見された課題

メールボックスの合計サイズが約200GBで、移行には数日を要する見込みでした。B社の独自ドメインで外部サービス(Webサイト、メールマガジン配信等)のDNSレコードが設定されており、ドメイン移管時の影響調査が必要でした。退職済み社員のアカウントが3件残存し、共有メールボックスとして使われているものが1件ありました。B社独自のSaaSが12サービスあり、うち4サービスはA社と重複していました。

フェーズ2:設計と計画(2ヶ月目)

統合方針

「B社テナントのユーザー・データをA社テナントに片寄せする」方針に決定しました。A社テナントの方がセキュリティ設定が整っており、ライセンスもE3(上位プラン)のため、統合先として合理的です。

移行計画の策定

全体を4つのフェーズに分け、段階的に移行する計画を策定しました。

まずID・アカウント移行(B社ユーザーをA社テナントに作成)を行い、次にメール移行(BitTitanを利用したメールボックスのバッチ移行)、続いてファイル移行(OneDrive/SharePointデータの移行)、最後にドメイン切替(B社ドメインをA社テナントに追加)の順序です。

ユーザーコミュニケーション計画

B社の全従業員に対して、統合の目的と影響範囲を説明する全体会を実施しました。「メールアドレスは変わらない」「ファイルは移行される」「操作方法が一部変わる」といった、従業員が最も気にするポイントを先に伝えることで、不安の払拭を図りました。

フェーズ3:移行実施(3〜5ヶ月目)

ID・アカウント移行

A社テナントにB社ユーザーのアカウントを新規作成し、E3ライセンスを割り当てました。この段階では旧テナントも並行稼働させ、ユーザーは旧アカウントで業務を継続します。

新アカウントにはA社のセキュリティポリシー(MFA必須、条件付きアクセス、デバイスコンプライアンス)を適用。B社ユーザーのMFA登録を事前に実施し、切替時のトラブルを防止しました。

メール移行

BitTitan MigrationWizを使用して、B社のメールボックスをA社テナントに移行しました。移行は2段階で実施しています。初回の事前同期として過去のメールデータを一括移行(約200GB、所要時間4日)し、その後カットオーバー当日に差分同期と MXレコード切替を実施しました。

カットオーバーは金曜夜に開始し、土曜日中に完了。月曜朝から新テナントでメールを利用開始する計画とし、実際にダウンタイムはほぼゼロで完了しました。

ファイル移行

OneDriveの個人データは、ShareGateを使用してユーザー単位で移行。B社のSharePointサイト(少量)もA社テナントのSharePoint Onlineに移行しました。

ファイル移行で最も時間がかかったのは、移行前のフォルダ構造の整理です。B社ではOneDriveの個人フォルダに本来共有すべきファイルが大量に保存されており、これをSharePointの部門サイトに再配置する作業が必要でした。

SaaSの統合

A社と重複する4サービス(プロジェクト管理、チャット、Web会議、CRM)については、A社側のサービスに一本化。B社独自の8サービスのうち、3サービスはA社の既存ツールで代替可能と判断して廃止し、5サービスはA社テナントのSSOに統合しました。SaaS統合により月額約12万円のライセンスコスト削減を実現しました。

フェーズ4:ドメイン切替と安定化(6ヶ月目)

B社のメールドメインをA社テナントに追加し、DNSのMXレコードを切り替えました。外部サービス(Webサイト等)のDNSレコードは事前に影響調査を行い、切替時に同時更新しています。

切替後2週間は「安定化期間」として、ヘルプデスクの体制を通常の2倍にし、B社ユーザーからの問い合わせに即座に対応できる体制を維持しました。

プロジェクトの成果

指標統合前統合後
テナント数21
MFA導入率(B社)管理者のみ100%
条件付きアクセス(B社)未設定A社と同一ポリシーを適用
SaaS契約数(グループ全体)28サービス21サービス
ライセンスコスト(月額)A社+B社合計 約85万円統合後 約68万円(年間約200万円削減)
メールドメイン2ドメイン2ドメイン(1テナントで管理)

この事例から学べるポイント

アセスメントに十分な時間をかける。 統合先の環境だけでなく、統合元の「見えていないリスク」(退職者アカウント、未管理のSaaS、バックアップ未設定等)を洗い出すことが、後工程のトラブルを防ぎます。

ユーザーコミュニケーションは早めに、具体的に。 「何が変わり、何が変わらないか」を具体的に伝えることで、従業員の不安を最小化できます。特にメールアドレスが変わらないことは最大の安心材料です。

段階的な移行でリスクを分散。 一気にすべてを切り替えるのではなく、ID→メール→ファイル→ドメインの順序で段階的に進めることで、問題が発生しても影響範囲を限定できます。

コスト削減効果を数値で示す。 経営層への報告では、SaaS統合によるコスト削減額、ライセンス最適化による削減額など、定量的な成果を示すことが重要です。

M&A後のテナント統合をご検討の方は、テナント統合ガイドをご覧ください。具体的なプロジェクトのご相談はお問い合わせよりお気軽にどうぞ。

あわせて読みたい

情シスのお悩み、ご相談ください

専門スタッフが貴社の課題に合わせたご提案をいたします。

メールでのお問い合わせはこちら →
60分無料相談