取引先から「SCS評価制度に対応してほしい」と言われたら ― 中小企業の交渉と社内検討マニュアル

経済産業省・IPAのSCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)が2027年2〜3月頃(2026年度末)からの運用開始を目指して整備されるなか、すでに大手取引先から「将来的に★3の取得を検討してほしい」「取引継続の条件として段階的にセキュリティ評価への対応を求める可能性がある」といった打診を受けるケースが出てきています。

本記事は、こうした打診を受けた中小企業の経営者・情シス担当者向けに、慌てず・損せず・現実的に対応するための社内検討と交渉の進め方をまとめたものです。

なお、SCS評価制度は2026年4月時点で制度構築方針が公表された段階で、要求事項を定める評価ガイドは2026年秋頃公表予定です。取引先からの要求も、現時点では「制度開始後の対応を見据えた事前打診」の性質を帯びているケースが多い点を踏まえてお読みください。

まずやること:要求内容の正確な確認

取引先から「セキュリティ評価への対応を」と言われたとき、最初にやるべきは要求内容の正確な確認です。曖昧なまま社内で議論を始めると、必要以上の対策に走ったり、逆に不十分な対応で取引を失ったりするリスクがあります。

確認すべき項目は次の5点です。

  1. どのレベルを求めているか:★3か、★4か、それ以上か。明示されていない場合は確認する。
  2. いつまでに:制度の運用開始(2027年2〜3月頃(2026年度末))に合わせてか、それより後のスケジュールか。
  3. 取引のどの範囲に適用されるか:自社全体か、特定の事業部・拠点・データのみか。
  4. 必須要件か推奨か:取引継続の必須条件なのか、努力目標としての推奨なのか。
  5. 取引先のスタンス:評価取得費用や対応工数に対する支援の有無、未取得時の取引条件変更の有無。

これらを口頭ではなく文書(メール、依頼書)で確認します。後の社内決裁、コスト見積、期限交渉の根拠になります。

★3と★4のどちらを目指すか

SCS評価制度の★3は「一般的なサイバー脅威への対処」を水準とし、自己評価+社内外のセキュリティ専門家による確認方式で取得します。★4は「取引先データ保護に寄与する強靭化策」を水準とし、評価機関による第三者評価+技術検証が必要になります。

対策範囲、専門家関与の度合い、費用が大きく異なるため、取引先の要求が「★3でよい」のか「★4まで必要」なのかは早期に確定させる必要があります。

★3と★4の評価基準比較はSCS評価制度★3・★4の評価基準比較|セルフチェックリスト付きで詳しく解説しています。

中小企業の多くは、まずは★3を目指すのが現実的です。取引先が★4を要求している場合でも、「★3を先行取得し、その後★4にステップアップする」という段階的計画を提案することで、取引継続と費用負担の両立を図れる場合があります。

社内検討のステップ

Step 1: 影響範囲の見立て

要求された対応に必要な工数・費用・期間をざっくり見積もります。社内に情シス・セキュリティ担当者がいる場合は内部で、いない場合は外部の支援事業者にアセスメントを依頼します。

★3〜★4の場合、現状のセキュリティ対策レベルと目標★により以下が目安です。

  • SECURITY ACTION★2取得済み・基本的な対策が一通り入っている:半年〜10か月、対策強化と専門家レビューで50〜200万円規模(★3)
  • 基本的な対策(MFA・MDM・バックアップ等)が未整備:1年程度、対策実装と評価準備で200〜500万円規模(★3〜★4)
  • ★4を目指す場合:第三者評価機関への支払いが追加で発生(評価機関により異なる)

詳細な準備手順はSCS評価制度の準備ガイド ― 中小企業が2026年度中にやるべきことを参照してください。

Step 2: 経営判断:取得するか/代替案を交渉するか

見立てができたら、経営層で次の3つの選択肢を比較します。

  1. 要求どおり取得する:取引価値が高く、取得費用を回収できる見込みがある場合。
  2. 段階的取得を交渉する:先に★3、後に★4のように、複数年計画を提案する。
  3. 代替策を提案する:ISMS(ISO 27001)取得済みであれば、その実績で同等の対応を主張できる場合がある。

ISMSやPマークとの違いはSCS評価制度 vs ISMS vs Pマーク ― 違いと使い分けを徹底比較を参考に判断してください。

Step 3: 取引先との交渉

取得を前提とする場合でも、以下の交渉余地があります。

  • 期限:制度運用開始直後は専門家・評価機関のリソースが逼迫するため、半年〜1年の猶予を相談する。
  • 費用負担:対策実装・評価取得費用について、価格転嫁や取引先からの支援の有無を確認する。
  • 適用範囲:自社全体ではなく、当該取引に関わる事業所・システムに範囲を絞れないか相談する。
  • 代替手段:ISMS取得済みであれば、それを並行して評価対象として認めてもらえるか確認する。

取引先側も「サプライチェーン全体のセキュリティ底上げ」が目的であり、取引先を失うことが目的ではありません。誠実にコスト・期間を提示すれば、現実的な落としどころが見つかるケースが多いというのが実務感覚です。

取得までのコストを抑える3つの方法

お助け隊サービス(新類型)の活用

経済産業省は、中小企業がSCS★3・★4を安価かつ簡便に取得できるよう、「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の新類型を創設する方針を示しています。

詳細は2026年秋頃の制度詳細公表を待つ必要がありますが、中小企業向けの公的支援策としてSCS取得を支援するサービスが整備される見込みです。費用負担を最小化したい場合は、新類型の活用を選択肢に入れておきましょう。

IT導入補助金などの補助制度の活用

セキュリティ対策に活用できる補助金・助成金として、IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)などがあります。SCS取得に直結する補助メニューはまだ整備中ですが、対策実装に必要なツール導入には既存の補助金が使える場合があります。

中小企業向けのIT補助金活用はIT補助金で情シスアウトソーシングは対象になるかも参考にしてください。

段階的アプローチ

一度にすべてを実装しようとすると費用が膨らみます。SECURITY ACTION★2 →★3 →★4のように段階的に進めることで、年度ごとの投資を平準化できます。

ステップアップの具体手順はSECURITY ACTION(★1・★2)からSCS評価制度(★3)へのステップアップロードマップで解説しています。

やってはいけない対応

「対応しません」と即答する

要求内容を確認せずに断ると、取引先は他のサプライヤーへの切り替えを検討します。コストや期間の懸念があっても、まずは内容を確認したうえで現実的な提案を返すのが鉄則です。

「とりあえず取ります」と即答する

費用・工数の見立てもないまま安請け合いすると、後から想定外の負担が発覚し、社内が疲弊します。Step 1の影響範囲の見立てを必ず先に行い、根拠ある回答を返します。

評価ガイド公表を待ってから動き出す

2026年秋に評価ガイドが公表されてから対策実装を始めると、運用開始直後の取得は間に合いません。評価ガイドの正式版を待たなくても、現時点で公表されている制度方針から優先度の高い基盤対策(MFA、MDM、バックアップ、退職者アカウント管理など)の実装は始められます。

自社だけで判断・対応するのが難しい場合

取引先からの要求内容の解釈、社内検討のリード、対策実装、専門家レビューまでを社内リソースだけで進めるのは、IT専任者がいない中小企業にとって現実的ではありません。

情シス365では、取引先からSCS対応を求められた中小企業向けに、要求内容の整理、現状アセスメント、対応計画の策定、対策実装、専門家レビュー、取引先への説明資料作成までをワンストップで支援しています。

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