SCS評価制度、早期取得した中小企業が得られる3つの先行者メリット
「取引先から、セキュリティ対策の実施状況を提出するよう求められた」——2024年頃から、そんな相談が中小企業の経営者・情シス担当者から急増しています。
背景にあるのは、サプライチェーン経由のサイバー攻撃の増加です。大企業が直接狙われるのではなく、セキュリティ対策が手薄な取引先(中小企業)から侵入され、最終的に本丸である大企業まで被害が及ぶ。近年の大型インシデントの多くは、この構造で起きています。
こうした中、中小企業のセキュリティ対策状況を「見える化」する制度が段階的に整備されています。すでに運用されているのが**IPAのSECURITY ACTION(★1・★2の自己宣言制度)で、その上位に★3〜★5を新たに定義するのが、経済産業省のSCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)**です。SCS評価制度は2026年3月27日に制度構築方針が正式公表され、2027年3月頃に★3・★4の申請受付開始が見込まれています。
本記事では、これらの制度で上位評価を早期に取得した中小企業が、実際に得ている3つの先行者メリットと、申請できる状態に到達するまでの最短ルートを解説します。
前提:SCS評価制度は任意の制度です。 経済産業省・内閣官房 国家サイバー統括室は2026年4月27日、「評価を取得していないと商取引が規制される」「今すぐ取得しないと入札から除外される」といった説明を用いた不適切な勧誘への注意喚起を公表しています。本制度は個社間の商取引を規制するものではなく、特定のセキュリティ対策製品の導入を必須とするものでもありません。また★3・★4の申請受付は2027年3月頃の予定で、2026年8月時点で★を取得することは制度上できません(勧誘の見分け方)。本記事の「早期取得」は、申請受付開始に向けて準備を先行させることを指します。
先行者メリット1:大手との新規取引機会を”取引条件クリア”で先取り
取引先選定の基準に組み込まれ始めている
2024〜2025年にかけて、大企業の調達部門・情シス部門では、取引先のセキュリティ評価基準の見直しが進みました。経済産業省が公表している「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」や、業界団体が策定したセキュリティ対策ガイドラインを受け、次のような動きが広がっています。
- 新規取引開始時に、セキュリティ対策状況のチェックシート提出を必須化
- 一定規模以上の取引では、対外的に示せる取り組み(SECURITY ACTION★2の自己宣言など)を条件化
- 既存取引先に対しても、年次で評価状況の再提出を要求
いずれも取引先企業が自社の調達基準として設けているものであり、制度が取引を規制しているわけではありません。とはいえ、取引先リストの選定段階で対外的に示せる取り組みを持つ企業が優先されるケースはあり、「求められてから着手する」と商談の初期段階で時間を取られやすいのは実際のところです。
早期取得企業は「選ばれる前提」で営業できる
一方、2024年〜2025年の段階でSECURITY ACTION二つ星などを取得した中小企業は、次のような営業上の優位を得ています。
- 大手との初回商談時に、SECURITY ACTIONのロゴ(★1・★2の宣言企業が名刺・Webサイトに掲出できるもの)を提示して取り組み状況を即座に示せる
- 他社がチェックシート対応に追われる中、営業プロセスを1〜2か月短縮
- 「セキュリティ対応済み」を武器に、単価交渉でも優位に立てる
中小企業の場合、大手1社との新規取引は売上インパクトが大きく、評価取得に投じたコスト(SCS★3〜★4で、外部コンサル費を含めて数十万〜500万円程度。目標★レベルと現状の対策水準により変動)は1案件で十分回収可能というケースがほとんどです。SECURITY ACTIONそのものの申込に費用はかかりません。
“駆け込み”では間に合わない領域が出てくる
制度によって、取得までの実質的な所要期間は大きく異なります。
- SECURITY ACTION★1:情報セキュリティ5か条への取り組み宣言。申込自体は最短1日〜1週間程度
- SECURITY ACTION★2:「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(25項目)の実施と情報セキュリティ基本方針の策定・公開が前提。宣言は自己宣言だが、診断と方針整備に1〜3か月が現実的
- SCS評価制度★3:専門家の確認と署名が必須。対策実装と証跡整備を含めると半年〜1年を見込む必要がある
SCS★3は申請受付が始まってから着手しても、対策実装と証跡整備に半年〜1年かかります。取引先から求められた時点で動き始めると、その商談には間に合わない可能性がある——ここが「早めに準備しておく」ことの実質的な理由です。逆に言えば、急いで高額な支援契約を結ぶ理由にはなりません(過剰提案を見抜く5つの質問)。
先行者メリット2:サイバー保険の優遇と補助金の活用
セキュリティ評価取得がサイバー保険料に直結
損害保険各社は、近年サイバー保険の引受基準を厳格化しています。これまでは「申込書の自己申告」で加入できていたものが、2024年以降は次のような条件が課されるケースが増えました。
- MFA(多要素認証)の全社導入状況
- EDR製品の導入有無
- インシデント対応計画の整備状況
- 外部評価(SECURITY ACTION等)の取得有無
一定以上の評価を取得している企業は、次のメリットを享受できます。
- 保険料が10〜30%割引になる(保険会社・プランによる)
- 補償限度額の上限が引き上げられる
- インシデント発生時の支援サービス(フォレンジック、広報対応など)が手厚くなる
中小企業がサイバー保険に加入する場合、年間保険料は50〜300万円程度が一般的です。10%割引でも年間5〜30万円のコスト削減になり、数年で評価取得コストを回収できます。
IT導入補助金の加点要素としても機能
IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠含む)の審査においても、SECURITY ACTIONの取得状況は申請時の加点要素として明記されています。
- 一つ星:申請要件または加点要素
- 二つ星:より高い加点が付与されるケースあり
補助金は予算枠が毎年限られており、加点なしでは採択されない年度もあります。早期に評価を取得しておくことで、いざ補助金を活用したいタイミングで確実に採択される確率を高められるのは、中長期的に大きなメリットです。
先行者メリット3:人材採用・定着率の向上
セキュリティ意識の高いIT人材を惹きつける
中小企業の情シス採用は、2024年以降さらに厳しくなっています。特にセキュリティ領域の経験者は、大手・メガベンチャーからの引き合いが強く、中小企業が採用するのは容易ではありません。
そんな中、セキュリティ評価を取得している企業は採用市場で次の優位性を持ちます。
- 「セキュリティに投資している会社」として候補者に訴求できる
- 採用面接時に、実施済みのセキュリティ施策を具体的に提示可能
- 「情シスが孤軍奮闘しなくていい体制」を示せる(CISO補佐・外部パートナー活用の証拠として)
特に中途採用の情シス経験者は、前職での”ひとり情シス疲れ”を経験しているケースが多く、「会社として仕組みが整っている」ことを重視します。評価取得は、その信号として極めて有効です。
既存社員のセキュリティリテラシー底上げにもつながる
SECURITY ACTION二つ星の取得過程では、以下のような全社的な取り組みが必要になります。
- セキュリティポリシーの策定・全社員への周知
- 情報セキュリティ教育の定期実施
- インシデント発生時の報告フローの整備
- 実機演習やフィッシング訓練の実施
これらは情シス部門だけでなく、全社員のセキュリティリテラシーを底上げする効果があります。取得プロセスを通じて、「セキュリティは全員の仕事」という文化が社内に浸透し、結果としてヒューマンエラー起因のインシデント発生率を大きく下げることにつながります。
SCS評価制度に最短で申請できる状態を整える実務ステップ
Step 1:現状把握(1〜2週間)
まずは、自社の現状をIPAのSECURITY ACTION自己診断ツールで確認します。同時に、次のドキュメント類を棚卸しします。
- 情報セキュリティポリシー、ガイドライン類
- PCキッティング手順書、アカウント棚卸しリスト
- 過去のインシデント記録、対応ログ
- セキュリティ教育の実施記録
Step 2:ギャップ分析と対策計画(2〜3週間)
自己診断結果と、目標とする評価水準(SECURITY ACTION★2、その先のSCS★3)のギャップを洗い出し、次のような対策計画を立てます。
- 未整備のポリシーを策定(情報資産管理、アクセス制御、クラウド利用、テレワーク等)
- MFA未導入のアカウントへの段階的展開
- EDR導入またはアンチウイルスからのリプレース検討
- 社員向けセキュリティ教育の定期実施計画
Step 3:対策実装(2〜3か月)
ポリシー整備と並行して、技術的対策を実装します。
- Microsoft 365 / Google Workspace のセキュリティ設定強化(条件付きアクセス、DLPなど)
- エンドポイント対策(EDR、パッチ管理)の導入
- バックアップ体制(3-2-1ルール)の整備
- 社員教育の実施と記録
Step 4:申請書類の整備(1〜2か月)
必要書類を整え、申請・宣言を行います。SECURITY ACTIONは★1・★2とも自己宣言で、現時点で申込可能です。★2は自社診断と基本方針の策定・公開が前提となるため、社内での体制整備を裏づける記録の蓄積が重要です。
SCS★3ではこれに加えて、評価シートへの記入と専門家によるレビュー・署名が必要になります(申請・自己宣言の実務フロー)。ただし**★3・★4の申請受付開始は2027年3月頃の予定**で、申請方法や解説書・取得ガイドの公表も2026年秋頃以降です。Step 4のうち現時点で進められるのは書類と証跡の整備までで、申請そのものは受付開始を待つ必要があります。
情シス365による取得支援
情シス365では、中小企業向けのセキュリティ評価制度取得支援パッケージをご提供しています。
- 現状把握〜ギャップ分析〜対策実装〜申請支援までワンストップで対応
- 申請できる状態まで最短3か月(標準は4〜6か月)。★の取得時期は制度側の申請受付開始(2027年3月頃予定)に依存します
- 申請後の継続的な運用(Security365) まで切れ目なくサポート
- Security365サービスページで詳細をご確認いただけます
まとめ:2026年度は「申請の準備」を進める年
SCS評価制度への対応は、今後中小企業のセキュリティ対策を測る共通の物差しとして広がっていくと見られます。ただし制度は任意であり、取得が取引の条件になるかどうかは、あくまで個々の取引先の判断です。
現実的な論点は「間に合うかどうか」です。★3は対策実装と証跡整備に半年〜1年かかるため、申請受付が始まってから、あるいは取引先に求められてから着手すると、その商談には間に合わないことがあります。逆に2026年度中に基盤対策(MFA・MDM・バックアップ・退職者アカウント管理など)を終えておけば、受付開始後に落ち着いて申請できます。これらは制度の有無にかかわらず有効な対策なので、仮に★を取らない判断をしても無駄になりません。
- 取引機会の先取り:大手の新規取引で条件クリア
- コスト削減:サイバー保険料・補助金加点で回収可能
- 採用優位:セキュリティ意識の高い人材を惹きつける
情シス365では、SCS評価制度の取得支援から、取得後のセキュリティ運用(MFA・EDR・ログ監視・SOCライト)までワンストップでお引き受けしています。「取ったけど運用できない」を防ぎ、評価を実質的な競争優位につなげる仕組みをご提案します。
ご相談・お見積もりは、Security365サービスページ または お問い合わせフォーム からお気軽にどうぞ。