中小企業のインターネット回線の選び方|光回線・閉域網・モバイル回線の比較
回線選定は「速度」だけで決めてはいけない
中小企業がインターネット回線を選ぶ際、「速度が速ければいい」と考えがちですが、ベストエフォート型の速度表記に惑わされず、帯域保証、SLA(サービスレベル保証)、冗長化の3つの観点で選定する必要があります。
契約を変える前に、遅い原因を特定する
「回線が遅い」の原因が回線ではないケースが、実際には多くあります。 契約を変えても改善しないため、先に切り分けてください。
- ルーターやUTMが上限になっている — 1Gbpsの回線でも、機器の処理性能が数百Mbpsなら、そこが天井になります。UTMは全機能を有効にすると公称値より大きく下がります(UTMの基礎)
- Wi-Fiが原因 — 有線では速いのに無線だけ遅いなら、電波干渉やアクセスポイントの配置の問題です
- 社内LANの機器が古い — 100Mbpsまでのハブが途中に残っていると、そこで頭打ちになります
- 特定の時間帯だけ遅い — バックアップやOS更新の配信が業務時間に走っていないか確認します
測る場所を変えて比較するのが最短です。 ルーターの直下(有線)と、実際の執務席(無線)で速度を測り、どこで落ちているかを見ます。
IPv6(IPoE)への切り替えで解決することもある
夕方から夜にかけて遅くなる場合、従来方式(PPPoE)の混雑が原因のことがあります。契約はそのままで、接続方式をIPoEに変更するだけで改善するケースがあり、費用も抑えられます。ただし対応するルーターが必要で、固定IPの利用条件も方式によって変わるため、事前に確認してください。
回線の種類と特徴
フレッツ光系(ベストエフォート)
NTT東西のフレッツ光は、最も普及しているインターネット回線です。月額数千円と安価ですが、ベストエフォート型(速度保証なし)のため、時間帯によって速度が大きく変動します。Web閲覧やメール程度なら十分ですが、大規模なWeb会議やクラウドサービスの常時利用では帯域不足になることがあります。
ビジネス光(帯域保証型)
NTTビジネス回線やKDDI、ソフトバンクのビジネス向け回線は、帯域保証(最低速度の保証)とSLA(障害時の復旧時間保証)が付きます。月額数万円と高くなりますが、業務の安定性を重視する企業には必須です。
閉域網(専用線・VPN)
拠点間通信をインターネットを経由せずに行う回線です。セキュリティが最も高いですが、コストも最も高く、中小企業では特定の業種(金融、医療等)を除いて必要になるケースは少ないです。SD-WANの登場により、インターネット回線+暗号化で閉域網に近いセキュリティを実現できるようになっています。
モバイル回線(4G/5G)
固定回線の障害時のバックアップ回線として有効です。SIM対応のルーター(自動フェイルオーバー機能付き)を設置しておくと、光回線が切れてもモバイル回線に自動切り替えし、業務を継続できます。
回線の冗長化
業務がインターネットに依存している企業(クラウドサービス中心の業務)は、回線の冗長化を検討してください。メイン回線(ビジネス光)+バックアップ回線(モバイル回線)の2回線構成が最もコストパフォーマンスに優れます。
2回線を異なるISP(プロバイダ)から引くことで、1社の障害で両方が止まるリスクを回避できます。
ただし、ISPを分けても物理的な経路が同じなら意味がありません。 同じ建物の同じ配管を通っていれば、工事や断線で両方止まります。ビルの共用設備を使っている場合は特に確認してください。モバイル回線をバックアップにする構成が中小企業で有効なのは、経路が完全に別だからです。
切り替わったときに何が起きるかを確認する
自動フェイルオーバーは「切り替わって終わり」ではありません。切り替え時にIPアドレスが変わるため、次が影響を受けます。
- VPN接続が切断される — 再接続が必要になります
- 固定IPを条件にアクセス制限をかけているサービスに入れなくなる(取引先のシステム、業務用SaaSなど)
- 自社サーバーへの外部からのアクセスが届かなくなる
バックアップ回線の帯域も確認してください。 モバイル回線に切り替わった状態でWeb会議を全社で行うと、回線が飽和します。「切り替われば通常どおり」ではなく、縮退運転で何ができるかを事前に決めておくことが実務上は重要です。
導入には時間がかかる
回線の新設や変更は、申し込みから開通まで数週間〜数ヶ月かかります。 ビルの配管状況によっては工事が必要になり、さらに延びます。
- オフィス移転では、移転日の3〜6ヶ月前から手配を始めてください(移転時のITチェックリスト)
- 増員で帯域が足りなくなってから手配すると、数ヶ月間つらい状態が続きます
- 既存回線の解約には最低利用期間と違約金が設定されていることがあります。新旧の並行期間も含めて費用を見積もってください
帯域の目安
従業員1人あたり3〜5Mbps程度が目安です。50名の企業なら150〜250Mbpsの実効速度が必要です。ベストエフォート1Gbpsの回線でも、実効速度は100〜500Mbps程度であることが多いため、速度測定で実態を把握してください。
下りだけでなく、上りの帯域も確認してください。 Web会議のカメラ映像、クラウドへのファイルアップロード、バックアップの送信は、いずれも上り方向です。上りが細い回線では、会議中に自分の映像だけが乱れるという形で問題が表面化します。
Web会議の同時利用数から逆算するのが実務的です。 全社員の半数が同時に会議に参加する状況を想定し、その分の帯域が確保できるかを確認してください。
SLAは「保証」ではなく「目標」であることが多い
ビジネス回線のSLAを過信しないでください。契約書で確認すべきは次の点です。
- 復旧時間は「保証」か「目標」か — 目標値であれば、超過しても返金だけで済まされます
- 返金額の上限 — 多くは月額料金の一部です。業務停止による損失は補填されません
- 免責の範囲 — 災害、ビル設備の問題、他社設備に起因する障害は対象外とされることが一般的です
- 障害の受付時間と、実際に技術者が動く時間 — 24時間受付でも、対応は翌営業日というケースがあります
SLAは損失を埋めるものではなく、対応の優先度を上げるためのものと考えてください。 業務停止の損失を本当に避けたいなら、冗長化のほうが確実です。
まとめ
- 契約を変える前に、遅い原因がルーター・UTM・Wi-Fi・社内LANのどこにあるかを切り分ける
- UTMは全機能を有効にすると公称値より大きく下がる。機器が上限になっていないか確認する
- 夕方に遅くなるなら、IPoEへの切り替えで改善することがある。対応ルーターと固定IPの条件を確認
- ISPを分けても、物理経路が同じなら同時に止まる。モバイル回線が有効なのは経路が別だから
- 切り替え時はIPアドレスが変わり、VPNやIP制限付きサービスが影響を受ける
- バックアップ回線では縮退運転で何ができるかを事前に決めておく
- 回線の手配は数週間〜数ヶ月。移転は3〜6ヶ月前、増員は不足する前に着手する
- 解約には最低利用期間と違約金、新旧の並行期間の費用も見積もる
- 上りの帯域を確認する。Web会議・アップロード・バックアップはすべて上り方向
- SLAは復旧の「目標」であることが多く、業務停止の損失は補填されない。確実なのは冗長化
回線選定は「速度・帯域保証・SLA・冗長化・コスト」の5軸で検討してください。情シス365では、回線選定からネットワーク設計まで、ITインフラ全体の最適化をサポートしています。