ゼロトラストとは?「何も信頼しない」セキュリティモデルを中小企業向けにわかりやすく解説
ゼロトラストとは
ゼロトラスト(Zero Trust)とは「何も信頼せず、すべてを検証する」というセキュリティの考え方です。従来の「社内ネットワークは安全、社外は危険」という境界型セキュリティモデルに代わる、現代のIT環境に適したアプローチです。
なぜゼロトラストが必要か
従来の境界型セキュリティは「社内ネットワークに入れば信頼する」モデルでした。しかし、クラウドサービスの普及(データが社外に存在)、リモートワークの常態化(社員が社外からアクセス)、サイバー攻撃の高度化(一度侵入されると社内を自由に移動される)により、「社内=安全」の前提が成り立たなくなりました。
ゼロトラストは、社内・社外を問わず、すべてのアクセスを「信頼しない」前提で検証します。
ゼロトラストの3原則
第一に「常に検証する」です。ユーザーがアクセスするたびに、ID、デバイスの状態、アクセス元の場所を検証します。一度認証したからといって無条件に信頼しません。
第二に「最小権限の原則」です。ユーザーには業務に必要な最小限のアクセス権限のみを付与します。「念のため広めの権限を付けておく」は禁止です。
第三に「侵害を前提とする」です。すでに攻撃者が内部にいることを前提に、被害を最小限に抑える設計をします。ネットワークのセグメント分離、異常行動の検知がこれにあたります。
よくある3つの誤解
誤解1:ゼロトラスト製品を買えば実現できる
ゼロトラストは考え方であって、製品名ではありません。 「ゼロトラスト対応」を掲げる製品を導入しても、それだけで実現するものではありません。すでに契約しているM365の機能を設定するだけで、大部分は進みます。
誤解2:VPNやファイアウォールを捨てる話だ
境界防御をやめるという意味ではありません。「境界の内側だから信頼する」という前提をやめるという意味です。VPNは引き続き必要な場面がありますし、ファイアウォールも不要になりません。
誤解3:大企業だけの話だ
ゼロトラストの中核は、「誰が」「どの端末で」アクセスしているかを確認することです。M365やGoogle Workspaceを使っている企業なら、規模に関係なく設定できます。むしろ、社内サーバーが少なくクラウド中心の中小企業のほうが、移行しやすいという側面もあります。
中小企業のゼロトラスト導入ステップ
ゼロトラストは大企業だけのものではありません。M365を利用している中小企業なら、以下のステップで段階的に導入できます。
ステップ1としてMFAの全社適用です。ゼロトラストの第一歩であり、追加コストゼロで始められます。ステップ2として条件付きアクセスの設定です。Entra IDで「社外からのアクセス時に追加認証」「非準拠デバイスをブロック」等のポリシーを設定します。ステップ3としてデバイス管理です。IntuneでPCのセキュリティ設定を一元管理し、準拠デバイスのみM365にアクセス可能にします。ステップ4としてデータ保護です。秘密度ラベル(Microsoft Purview)で機密ファイルを自動暗号化し、不正な持ち出しを防止します。
各ステップで必要になるもの
| ステップ | 追加費用 | 主な作業 |
|---|---|---|
| 1. MFA全社適用 | なし | 有効化と全員の登録。登録漏れをゼロにする |
| 2. 条件付きアクセス | 上位プランが必要な場合あり | ポリシー設計と影響確認 |
| 3. デバイス管理 | Intuneを含むプランが必要 | 端末の登録、非準拠端末の是正 |
| 4. データ保護 | プランによる | ラベルの設計と利用者への周知 |
ステップ1と2で、効果の大半が出ます。 ステップ3以降は作業量が増えるため、1と2を確実に終えてから進んでください。
頓挫する原因
- 一気にやろうとする — 「非準拠デバイスをブロック」を初日に有効にすると、業務が止まります。必ずレポート専用モードで影響を確認してから適用してください
- 例外を作りすぎる — 反発が出るたびに除外を追加すると、実質的に何も適用されていない状態になります。除外には期限と理由を記録してください
- 管理者が締め出される — 条件付きアクセスの設定ミスで、管理者全員がサインインできなくなる事故が実際に起きています。除外設定をした緊急用アカウントを先に用意してください
- 利用者への説明がない — 追加認証を求められると、故障と受け取られます。何がいつから変わるかを事前に案内するだけで、問い合わせは大きく減ります
進捗をどう測るか
「ゼロトラストを導入した」は判定できません。次のような数字で進捗を見てください。
- MFA未登録者数(目標:0人)
- 条件付きアクセスの除外設定のうち、理由を説明できないものの数(目標:0件)
- Intune未登録の端末数
- レガシー認証によるサインインの件数
VPNの廃止を目標にしないでください。 社内サーバーや基幹システムが残っている限り、VPNは必要です。「社内にいれば信頼する」設定をやめることが目的であり、VPNの有無ではありません。
まとめ
- ゼロトラストは考え方であって製品名ではない。契約済みのM365の設定で大部分が進む
- VPNやファイアウォールを捨てる話ではない。「内側だから信頼する」前提をやめる話
- クラウド中心の中小企業のほうが移行しやすい側面がある
- ステップ1(MFA)と2(条件付きアクセス)で効果の大半が出る。ここを確実に終える
- 頓挫の原因は、一気にやる・例外を作りすぎる・管理者の締め出し・説明不足
- 適用前にレポート専用モードで影響確認し、緊急用アカウントを除外しておく
- 進捗はMFA未登録者数・説明できない除外設定の数・未登録端末数で測る
- VPNの廃止を目標にしない。目的は「社内なら信頼する」設定をやめること
ゼロトラストは「一気に導入する」ものではなく、MFA→条件付きアクセス→デバイス管理→データ保護と段階的に実装するものです。M365を使っている企業なら、追加投資を最小限に抑えながら導入できます。
情シス365では、ゼロトラストの設計・段階的導入を支援しています。