Google WorkspaceのAUライセンス(アーカイブユーザー)とは? 退職者アカウントを低コストで保全する方法を徹底解説
「退職者のGmailやドライブのデータを残しておきたいが、毎月ライセンス費用を払い続けるのはもったいない」「監査や訴訟に備えて退職者のデータを保全したい」「アカウントを削除したらデータが消えてしまった」——Google Workspaceを運用する情シスなら一度はぶつかる悩みです。
この課題に対するGoogleの公式な答えが、**AUライセンス(Archived User/アーカイブユーザーライセンス)**です。退職者のアカウントを「アーカイブ済み」という状態に切り替えることで、通常ライセンスよりも大幅に低いコストでデータを保全し続けられます。
この記事では、AUライセンスの仕組み・対応エディション・料金の考え方から、退職者対応における「削除」「停止」との使い分け、Microsoft 365との比較まで解説します。
AUライセンス(アーカイブユーザー)とは
AUライセンスは、退職者などもう日常利用はしないが、データは保持したいアカウントのための専用ライセンスです。
通常、Google Workspaceではアカウントが存在する限り(一時停止中であっても)有料ライセンスが必要です。退職者のデータを残すためだけに月額数千円のライセンスを払い続けるのは現実的ではなく、かといってアカウントを削除するとデータは失われます。
AUライセンスはこの中間を埋める選択肢です。ユーザーを「アーカイブ」すると、
- アカウントとデータ(Gmail、ドライブ、カレンダー等)はそのまま保全される
- 通常ライセンスは解放され、別のユーザーに再割り当てできる
- 代わりに低価格のAUライセンスが割り当てられる
という状態になります。
参考: 元従業員のアカウントをアーカイブする - Google Workspace 管理者ヘルプ
アーカイブされたアカウントはどうなるか
ユーザーをアーカイブすると、アカウントは以下の状態になります。
本人はサインインできなくなる
アーカイブされたユーザーは、いかなる端末・方法でも自分のアカウントにサインインできません。Gmail、ドライブ、カレンダーなどすべてのサービスへのアクセスが遮断されます。退職者アカウントの不正利用防止という観点でも安全な状態です。
データはすべて保全される
Gmailのメール、マイドライブのファイル、カレンダー、連絡先などのデータはすべて保持されます。データレージョン(データの保管リージョン)の設定も維持されます。
新規メールは受信しない
アーカイブ後、そのアドレス宛の新しいメールやカレンダー招待はブロックされ、受信されません。送信者にはエラーが返ります。「退職者宛のメールを後任が受け取りたい」場合は、アーカイブ前にメール転送やグループアドレスへの切り替えを済ませておく必要があります。
ディレクトリから消える
アーカイブされたユーザーはグローバルアドレス帳(ディレクトリ)から削除され、社内ユーザーのメール作成時のオートコンプリートにも表示されなくなります。
共有ファイルは引き続きアクセスできる
アーカイブされたユーザーがオーナーのマイドライブのファイルでも、共有設定は維持されるため、共有されていたメンバーは引き続きアクセスできます。共有ドライブのファイルはそもそも組織の所有なので影響を受けません。
ただし、オーナーが不在のままファイルが放置されるのは管理上望ましくないため、業務継続に必要なファイルはアーカイブ前にオーナー権限を後任へ移管しておくのが実務上のベストプラクティスです。
Vaultの保持ルール・記録保持は維持される
Google Vaultを利用している場合、アーカイブされたユーザーのデータにも保持ルールや記録保持(リティゲーションホールド)が適用され続け、管理者はVaultから検索・書き出しができます。コンプライアンス目的の保全はこの組み合わせで実現します。
元に戻せる
アーカイブは可逆的な操作です。アーカイブを解除(通常ライセンスを再割り当て)すれば、アカウントはデータごと元の状態に戻ります。「復職した」「調査のためにアカウントの中身を直接確認したい」といった場合にも対応できます。
対応エディションとライセンスの対応関係
AUライセンスは、利用中のGoogle Workspaceエディションに対応するAUライセンスを購入する仕組みです。たとえばBusiness Plusを使っている組織は「Business Plus - アーカイブユーザー」ライセンスを購入します。
対応エディションは以下のとおりです。
- Business Starter / Business Standard / Business Plus
- Enterprise Standard / Enterprise Plus
- Education Fundamentals / Education Standard / Education Plus
以前はBusiness Plus以上に限定されていましたが、現在はBusiness Starter / Standardでも利用可能になっています。
ただし重要な注意点があります。Google Vaultが含まれるのはBusiness Plus以上です。Business Starter / StandardのAUライセンスでもデータの保全とアーカイブ自体は可能ですが、Vaultによる保持ルールの適用・検索・書き出しはできません。「監査や訴訟に備えた証拠保全」が目的なら、Business Plus以上が前提になります。
料金の考え方
AUライセンスの定価はGoogleの公式料金ページには掲載されておらず、管理コンソール上の表示価格、または販売代理店の見積もりで確認します。目安として、**通常ライセンスの数分の一程度(月額数百円/ユーザー程度)**で提供されるのが一般的です。
たとえばBusiness Plus(年契約で月額2,500円/ユーザー)の組織なら、退職者をアーカイブすることで1人あたり月額2,000円前後のコスト削減になり、保全人数が増えるほど差は大きくなります。
購入・割り当ての流れ
年間プラン(Annual Plan)の場合:
- 管理コンソール →「お支払い」→「サブスクリプション」
- 利用エディションに対応するAUライセンスのサブスクリプションを追加購入
- 対象ユーザーをアーカイブすると、AUライセンスが自動的に割り当てられる
フレキシブルプランの場合:
AUライセンスを事前購入する必要はありません。ユーザーをアーカイブすると自動的にライセンスが割り当てられ、翌月の請求に追加されます。
さらに、2026年4月からはフレキシブルプランであれば個別のAUサブスクリプション契約なしでユーザーをアーカイブできるようになり、導入のハードルが下がっています。
運用上の注意
- アーカイブすると元の通常ライセンスは解放され、24時間以内に別のユーザーへ再割り当て可能になります
- 新規にAUライセンスを購入した場合、有効になるまで最長48時間かかることがあります。退職日に合わせて使う場合は前もって購入しておきましょう
- アーカイブされたユーザーのデータは、組織の共有ストレージ(プールストレージ)を消費し続けます。大容量のドライブを持つ退職者が増えると、ストレージ逼迫の原因になる点は見落としがちです
参考: アーカイブユーザーライセンスを追加する - Google Workspace 管理者ヘルプ
退職者対応の選択肢比較——削除・停止・アーカイブ
退職者アカウントの扱いには、AUライセンス以外にも選択肢があります。それぞれの特性を整理します。
| アカウント削除 | 一時停止 | アーカイブ(AU) | |
|---|---|---|---|
| データ | 20日経過で完全削除 | 保持 | 保持 |
| ライセンス費用 | 不要 | 通常ライセンスが必要 | AUライセンス(低価格) |
| 本人のサインイン | 不可 | 不可 | 不可 |
| 新規メール受信 | 不可 | 受信される(閲覧者なし) | ブロック |
| Vaultでの保全 | 不可(削除で消失※) | 可 | 可 |
| 復元 | 20日以内のみ | 可 | 可 |
※削除前にVaultの保持対象であっても、アカウント削除によりデータは保持対象外になります。Vaultで保全し続けたいユーザーは削除してはいけません。
使い分けの目安
- データ保持が不要な退職者 → 必要なデータ(ドライブのオーナー権限、メール)を後任へ移管したうえで削除。コストゼロ
- 数日〜数週間の暫定対応(退職直後の引き継ぎ期間など) → 一時停止。ただしライセンス費用がかかり続けるため、長期放置はNG
- データを長期保全したい退職者(規程・監査・訴訟対応) → アーカイブ(AU)が本命
実務では「退職処理の標準フローでは移管+削除、保全要件のある対象者(役員、経理、係争関係者など)はアーカイブ」という二本立てにするのが現実的です。退職時のIT手続き全体は「従業員退職時のIT対応完全ガイド」で詳しく解説しています。
Microsoft 365の「非アクティブメールボックス」との違い
Microsoft 365にも退職者データを保全する仕組みとして非アクティブメールボックスがあります。両者は思想が異なるため、M365と比較検討する場合や両方を運用する場合は違いを押さえておきましょう。
| GWS:アーカイブユーザー | M365:非アクティブメールボックス | |
|---|---|---|
| 保全対象 | アカウント全体(Gmail+ドライブ+カレンダー等) | メールボックスのみ(OneDriveは別途) |
| 追加費用 | AUライセンス(月額数百円程度) | 無料(ライセンス解放後も保持) |
| 前提条件 | 対応エディション+AUライセンス | 訴訟ホールドまたは保持ポリシーの事前適用 |
| アカウントの状態 | アカウントは存続(アーカイブ状態) | アカウントは削除済み |
| 復元 | アーカイブ解除で完全復元 | メールボックスの復元・回復操作が必要 |
M365は「ホールドをかけてからアカウントを削除すれば無料で保全」というアプローチ、GWSは「アカウントを残したまま低価格ライセンスに切り替える」というアプローチです。GWSは有料ですが、メールだけでなくドライブを含むアカウント全体を丸ごと保全できる点と、解除すれば即座に元どおりになる可逆性が強みです。
M365側の仕組みは「Microsoft 365の訴訟ホールド完全ガイド」を、両プラットフォームの監査・証拠保全機能の比較は「Google VaultとMicrosoft 365 eDiscoveryの比較」をご参照ください。
導入前のチェックリスト
AUライセンスの運用を始める前に、以下を確認しておきましょう。
- 利用エディションはAUライセンスに対応しているか(Vaultが必要ならBusiness Plus以上か)
- 退職者データの保持期間・対象者の基準が社内規程で定義されているか
- アーカイブ前の標準手順が退職フローに組み込まれているか
- メール転送・グループアドレスへの切り替え(アーカイブ後は受信不可のため)
- 業務継続に必要なドライブファイルのオーナー移管
- 共有ドライブ・グループ・各種管理者ロールからの除外
- プールストレージの残量に対し、アーカイブ対象者のデータ量が許容範囲か
- 年間プランの場合、AUライセンスの事前購入が済んでいるか(有効化まで最長48時間)
まとめ
Google WorkspaceのAUライセンス(アーカイブユーザー)は、退職者アカウントを低コストで保全するための専用ライセンスです。ポイントを整理します。
- アーカイブするとサインイン不可・新規メール受信ブロックになるが、データはアカウント丸ごと保全され、Vaultの保持・検索も維持される
- 通常ライセンスは解放して再利用でき、AUライセンスは月額数百円程度で済む
- Business Starter / Standardでも利用可能になったが、Vaultによる証拠保全が必要ならBusiness Plus以上
- 2026年4月以降、フレキシブルプランならAUサブスクリプション契約なしでアーカイブ可能
- アーカイブ済みユーザーのデータはプールストレージを消費し続ける点に注意
- 退職者対応は「移管+削除」を標準とし、保全要件のある対象者にアーカイブを使う二本立てが現実的
情シス365では、Google Workspaceの退職者アカウント運用の設計(アーカイブ・Vault・オフボーディングフローの整備)を支援しています。「退職者のデータ保管ルールを整えたい」「ライセンスコストを最適化したい」という方は、お気軽にご相談ください。