Microsoft 365のアーカイブメールボックスと訴訟ホールドとは? メールの長期保存とコンプライアンス対応の基礎知識
「退職した社員のメールを5年間保管しなければならない」「訴訟に備えてメールデータを保全する必要がある」「監査でメールの提出を求められた」——こうした要件に対応するのが、Microsoft 365のアーカイブメールボックスと**訴訟ホールド(リティゲーションホールド)**です。
どちらもメールの長期保存に関わる機能ですが、目的と動作が異なります。この記事では、両機能の仕組みを正確に理解し、どのような企業がどちらの機能を使うべきかを解説します。
アーカイブメールボックスとは
概要
アーカイブメールボックス(インプレースアーカイブ)は、ユーザーのメインメールボックスとは別に提供される追加のメールボックスです。古いメールをアーカイブメールボックスに移動することで、メインメールボックスの容量を節約しつつ、過去のメールを検索・参照可能な状態で長期保存できます。
Outlookのフォルダリストに「オンラインアーカイブ」として表示され、ユーザーは通常のフォルダと同じように操作できます。
容量
アーカイブメールボックスの容量はライセンスによって異なります。
- E3: アーカイブメールボックスは最初50GB。自動拡張アーカイブを有効にすると容量が自動的に拡張され、実質的に無制限
- E5: 同上
- Exchange Online Archiving(アドオン): Business BasicやBusiness Standardにアドオンとして追加可能。50GB+自動拡張
Business Premium単体ではアーカイブメールボックスは利用できません。 Exchange Online Archiving アドオン(月額約450円/ユーザー)を追加することで利用可能になります。
メインメールボックスとの違い
メインメールボックスとアーカイブメールボックスの主な違いは以下のとおりです。
メインメールボックスは日常のメール送受信に使われ、容量はプランに応じて50GB〜100GBです。アーカイブメールボックスは古いメールの長期保存に使われ、容量は自動拡張で実質無制限です。
アイテム保持ポリシーとの連携
Exchange Onlineの**アイテム保持ポリシー(MRM:Messaging Records Management)**を使えば、一定期間(例:1年)が経過したメールを自動的にメインメールボックスからアーカイブメールボックスに移動する運用が可能です。
たとえば「受信から1年以上経過したメールはアーカイブに自動移動」というポリシーを設定すれば、ユーザーが何もしなくてもメインメールボックスの容量が適正に保たれ、古いメールはアーカイブに蓄積されていきます。
参考: Exchange Online のアーカイブ メールボックス - Microsoft Learn
訴訟ホールド(リティゲーションホールド)とは
概要
訴訟ホールドは、ユーザーのメールボックス内のすべてのデータ(メール、予定表アイテム、タスク、メモ)を、ユーザーが削除しても保全し続ける機能です。法的な紛争や監査に備えて、証拠となり得るデータの改ざん・破棄を防止する目的で使われます。
訴訟ホールドが有効なメールボックスでは、ユーザーがメールを削除しても、「削除済みアイテムの回復」フォルダ(非表示の保持領域)にデータが保全され続けます。ユーザーからは削除されたように見えますが、管理者やコンプライアンス担当者はeDiscovery機能を使ってこれらのデータを検索・取得できます。
保持の範囲
訴訟ホールドが有効な場合、以下のすべてのアイテムが保全対象になります。
- 受信・送信メール
- 削除済みメール(ユーザーが「削除済みアイテム」から削除しても保全)
- 予定表アイテム
- タスク
- メモ
- メール内の添付ファイル
- Teamsのチャットメッセージ(Exchange Onlineに保存されるため)
訴訟ホールドの期間
訴訟ホールドは、無期限に設定することも、特定の期間(例:7年間)を指定して設定することも可能です。期間を指定した場合、その期間が経過したアイテムはホールドから解除され、通常の削除ポリシーに従って処理されます。
必要なライセンス
訴訟ホールドの利用には、以下のいずれかのライセンスが必要です。
- Exchange Online プラン2
- Microsoft 365 E3以上
- Microsoft 365 Business Premiumに Exchange Online Archiving アドオンを追加
Business Premium単体では訴訟ホールドは利用できません。 E3にアップグレードするか、Exchange Online Archivingアドオンを追加する必要があります。
参考: 訴訟ホールドを作成する - Microsoft Learn
アーカイブと訴訟ホールドの違い
両機能はどちらも「メールの長期保存」に関わりますが、目的と動作が異なります。
目的の違い
アーカイブ: メインメールボックスの容量を管理しながら、古いメールを長期保存すること。日常的な運用管理が目的。
訴訟ホールド: 法的な紛争や監査に備えて、メールデータの改ざん・破棄を防止すること。コンプライアンスが目的。
ユーザーの操作に対する動作
アーカイブ: ユーザーはアーカイブメールボックス内のメールを閲覧・検索できます。メインメールボックスからアーカイブへの移動は、ユーザーが手動で行うこともポリシーで自動化することも可能です。アーカイブ内のメールもユーザーが削除できます。
訴訟ホールド: ユーザーの操作に関係なく、データを保全します。ユーザーがメールを削除しても、バックエンドの非表示領域にデータが保全され続けます。ユーザーからはデータが削除されたように見えますが、実際には残っています。
併用が一般的
アーカイブと訴訟ホールドは排他的な機能ではなく、併用するのが一般的です。
典型的な運用は以下のとおりです。アーカイブメールボックスを有効にして、1年以上前のメールを自動でアーカイブに移動する保持ポリシーを設定します。同時に訴訟ホールドを有効にして、すべてのメール(メインメールボックス+アーカイブメールボックス内のアイテムを含む)をユーザーの削除から保護します。
この組み合わせにより、メインメールボックスの容量を適正に保ちながら、法的な保全要件も満たすことができます。
Microsoft Purview eDiscoveryとの関係
訴訟ホールドで保全したデータを実際に検索・取得するには、Microsoft Purview eDiscoveryを使います。
eDiscovery(Standard)はE3以上で利用でき、以下の操作が可能です。
- キーワード、送信者、受信者、日付範囲を指定してメールを検索
- 検索結果のプレビューとエクスポート(PST形式等)
- ケース(案件)単位でのデータ管理
訴訟対応や監査対応で「特定の期間の特定のキーワードを含むメールをすべて抽出してほしい」という要求があった場合、eDiscoveryを使って対応します。
どのような企業に必要か
アーカイブメールボックスが必要なケース
- メールの保存量が多い社員がいて、50GBのメールボックスでは容量が不足する
- 社内ポリシーでメールを一定期間(例:3年、5年)保存する必要がある
- メインメールボックスの容量を適正に保ちつつ、過去のメールを検索可能な状態で残したい
訴訟ホールドが必要なケース
- 上場企業(J-SOX対応、監査対応)
- 訴訟リスクがある企業(取引先との紛争、知的財産訴訟)
- 業界規制でデータ保持が義務づけられている(金融、医療、製薬など)
- 退職者のメールデータを法的要件で一定期間保持する必要がある
- 内部不正の調査でメールデータの保全が必要になる可能性がある
中小企業での判断基準
上場していない一般的な中小企業であれば、訴訟ホールドは現時点では不要な場合が多いです。ただし、以下のいずれかに該当する場合は導入を検討してください。
- 上場準備を進めている
- 取引先から情報管理体制の強化を求められている
- 従業員との労務紛争のリスクがある
- 業種の規制でメールの長期保持が求められている
アーカイブメールボックスについては、メールの使用量が多い社員(営業職、管理職など)がいる場合に有効です。50GBの容量上限に近づいている社員がいたら、アーカイブの導入を検討するタイミングです。
退職者のメールボックスの保持
訴訟ホールドとアーカイブに関連して、退職者のメールボックスをどう扱うかも重要な論点です。
方法1:非アクティブメールボックス
訴訟ホールドが有効なメールボックスのユーザーアカウントを削除すると、メールボックスは「非アクティブメールボックス」として保持されます。ライセンスは不要になりますが、訴訟ホールドの期間中はデータが保全され、eDiscoveryで検索可能です。
これが退職者のメールデータを保持する最もコスト効率の良い方法です。
方法2:共有メールボックスへの変換
訴訟ホールドが不要な場合は、退職者のメールボックスを共有メールボックスに変換し、後任者にアクセス権を付与する方法があります。共有メールボックスは50GB以下であればライセンス不要です。
方法3:PSTエクスポート
メールデータをPSTファイルとしてエクスポートし、ファイルサーバーやSharePointに保管する方法です。ただし、PSTファイルではeDiscoveryによる検索ができないため、コンプライアンス要件がある場合には不向きです。
アイテム保持ポリシーとMicrosoft Purview保持ポリシーの違い
メールの保持に関して、Exchange Onlineには2つの異なるポリシーの仕組みがあります。混乱しやすいポイントなので整理しておきます。
MRM保持ポリシー(Messaging Records Management): Exchange Online固有の機能で、メインメールボックスからアーカイブメールボックスへのメール移動を自動化するポリシーです。「受信から1年経過したメールをアーカイブに移動」といったルールを設定します。
Microsoft Purview保持ポリシー: Microsoft 365全体のコンプライアンス機能で、Exchange Online、SharePoint、OneDrive、Teamsなど複数のサービスを横断してデータの保持と削除を管理するポリシーです。「すべてのメールを7年間保持し、7年後に自動削除」のようなルールを設定できます。
中小企業でシンプルに「古いメールをアーカイブに移動する」だけであればMRM保持ポリシーで十分です。複数サービスを横断した統一的なデータ保持ポリシーが必要な場合や、法的要件で保持期間と自動削除を厳密に管理する必要がある場合は、Microsoft Purview保持ポリシーを使います。
まとめ
アーカイブメールボックスと訴訟ホールドは、どちらもメールの長期保存に関わる機能ですが、目的が異なります。アーカイブは「容量管理+過去メールの参照」、訴訟ホールドは「法的なデータ保全」です。
中小企業では、まずメールボックスの容量が逼迫している社員にアーカイブメールボックスを導入するところから始めるのが現実的です。上場準備や訴訟リスクが顕在化した段階で、訴訟ホールドとeDiscoveryの導入を検討してください。
いずれの機能も、Business Premium単体では利用できない点に注意が必要です。E3へのアップグレードまたはExchange Online Archivingアドオンの追加が必要です。プランの選定については、別記事「Microsoft 365 Business PremiumとE3の違いを徹底比較」もあわせてご参照ください。
情シス365では、Microsoft 365のコンプライアンス機能(アーカイブ、訴訟ホールド、保持ポリシー、eDiscovery)の導入設計を支援しています。「メールの長期保存の仕組みを構築したい」「上場準備でコンプライアンス体制を整えたい」という方は、お気軽にご相談ください。