オフィス移転時のIT作業チェックリスト ― 移転3ヶ月前から当日までの完全ガイド
オフィス移転はIT担当者にとって最大級のプロジェクトです。ネットワーク回線の手配、PC・複合機の移設、電話番号の引き継ぎ、各種SaaSの住所変更 ― 漏れが一つでもあると、移転初日から業務が止まるリスクがあります。
本記事では、移転3ヶ月前から当日までのIT作業を、フェーズ別のチェックリストで整理します。
物件を決める前に、IT担当者が確認すべきこと
最も避けたいのは、契約後に「その物件では希望する回線が引けない」と判明することです。 内見の段階で次を確認してください。総務や不動産会社は、IT要件を把握していないのが通常です。
- 利用できる回線の種類と事業者 — ビルによっては特定の事業者しか引けません。ビル一括契約のインターネットが提供されている場合、独自回線を引けないことがあります
- 通信用の配管に空きがあるか — 満杯だと新設できません
- サーバールームに使える部屋と、その電源容量・空調 — 分電盤の容量が足りず、増設工事が必要になるケースがあります
- 工事可能な時間帯と休日の作業可否 — 平日日中しか工事できないビルでは、業務を止めずに移転できません
- 搬入経路とエレベーターの制限 — 大型機器(複合機、ラック)の搬入可否
- 既存のLAN配線の有無と品質 — 前テナントの配線が使えるか、引き直しが必要か
「入居できるか」ではなく「業務ができるか」を確認する立場が、IT担当者です。
3ヶ月前: 計画と手配
インターネット回線
- 移転先で利用可能な回線の種類と提供事業者を調査
- 新回線の申し込み(開通まで1〜2ヶ月かかる場合がある)
- 現オフィスの回線解約手続き(違約金の確認)
- 冗長回線の要否を検討
回線は最も早く着手してください。 申し込みから開通まで1〜2ヶ月が目安ですが、ビルの配管工事が必要な場合は3ヶ月以上かかることがあります。移転日が決まった時点で、真っ先に手配を始める項目です(回線選定の考え方)。
旧オフィスの回線は、移転後しばらく残してください。 当日中にすべてが新オフィスで動く保証はありません。並行期間の費用は保険と考えます。解約は、新環境の安定を確認してからです。
ネットワーク設計
- 移転先のフロアレイアウトに基づくLAN配線計画
- Wi-Fiアクセスポイントの配置計画
- サーバールーム・UPSの配置計画
- VPN装置の移設または新規設置の検討
電話
- 電話番号の引き継ぎ可否を確認(局番が変わる場合は番号変更が必要)
- クラウドPBX(Teams電話等)への移行を検討
- 電話回線の申し込み・解約手続き
ベンダー連絡
- 複合機のリース会社に移設連絡
- 電子カルテ・基幹システムのベンダーに移転連絡
- セキュリティシステム(入退室管理、監視カメラ)のベンダーに連絡
1ヶ月前: 詳細設計と準備
PC・端末
- 全PC・端末の棚卸し(台数、スペック、ラベリング)
- 梱包・運搬方法の確定(精密機器用の梱包材を手配)
- バックアップの取得(移転中の破損・紛失に備え、全PCのデータバックアップ)
ネットワーク機器
- ルーター、スイッチ、Wi-Fiアクセスポイントの設定情報をバックアップ
- 新オフィスのネットワーク機器の設定を事前に準備
- IPアドレス体系の設計(変更がある場合)
SaaS・クラウドサービス
- 住所情報を使用しているサービスの洗い出し
- IPアドレス制限を設定しているサービスの洗い出し(新回線のIPアドレスを追加)
- ドメインのDNS設定変更の要否確認
社内周知
- 移転スケジュールの全社通知
- 移転当日のIT作業手順の周知
- 移転後の問い合わせ先(ヘルプデスク)の周知
「いつからいつまで、何が使えないか」を明示してください。 「移転します」だけでは、当日出社した社員が普段どおり作業しようとします。メール・ファイルサーバー・電話・業務システムそれぞれについて、停止する時間帯を伝えます。
取引先への連絡も忘れないでください。 電話が一時的に不通になる、メールの返信が遅れる可能性がある旨を、事前に案内しておくとトラブルが減ります。
IPアドレス制限の洗い出しは早めに
移転当日に最も多いトラブルが、これです。 新しい回線のIPアドレスが許可されておらず、業務システムに接続できません。
- 自社が設定している制限(SaaS、社内システム、VPN)
- 取引先のシステムに登録してもらっている自社IP — 先方での変更作業に日数がかかるため、1ヶ月前には依頼してください
- 銀行のインターネットバンキング、電子申請系のサービス
- 固定IPが必要な場合、新回線で固定IPを契約しているか
新旧両方のIPを一時的に許可してもらうと、切り替え時のリスクが下がります。
1週間前: 最終確認
- 新オフィスのインターネット回線の開通確認
- 新オフィスのWi-Fi動作テスト
- 新オフィスのネットワーク機器の設定投入・テスト
- VPN接続のテスト
- 全PCのバックアップ完了確認
- 移転業者との搬入スケジュール最終確認
移転当日〜翌日
- PC・複合機の設置と動作確認
- ネットワーク接続の全端末確認
- 電話の動作確認
- VPN・リモートアクセスの動作確認
- プリンター・複合機のIPアドレス設定変更
- 各業務システムの動作確認
- 旧オフィスの機器撤去確認
移転後1週間
- SaaS・クラウドサービスの住所変更
- 名刺、Webサイト、メール署名の住所更新
- 旧オフィスのIPアドレス制限の解除
- 移転で発生した不具合の対応・記録
- 旧オフィスの回線解約確認
旧オフィスの機器は、データを消してから処分してください。 廃棄する複合機にはスキャンデータやアドレス帳が残ります。ファイルサーバーやNASを入れ替える場合も同様です。処分を業者に委託するなら、消去証明書の発行を条件にしてください。
移転当日の進め方
当日の作業は、順番を間違えると待ち時間が発生します。
- 新オフィスの回線とネットワーク機器を先に立ち上げる(搬入前に完了しているのが理想)
- Wi-Fiと有線の疎通を確認する
- 複合機・電話を設置し、動作確認
- PCを設置し、部門ごとに順次確認
- 業務システムへの接続を、部門の担当者に実際に触ってもらって確認する
5番目が重要です。 IT担当者が「つながる」ことを確認しても、業務システムの中で権限や設定が期待どおりかは、使う人でないと分かりません。
当日は必ず複数名で対応してください。 一人で全フロアの確認をすると、朝から深夜までかかります。手が足りない場合は、移転業者やベンダーに立ち会いを依頼する、外部に委託するといった手段を検討してください。
ひとり情シスでの移転は危険
オフィス移転のIT作業は、通常業務に加えて発生する大きな追加負荷です。ひとり情シスの状態で移転を乗り切るのは極めて困難です。
特に危ないのは、移転当日ではなく「移転後1〜2週間」です。 当日の対応で消耗したところに、細かい不具合の問い合わせが集中します。通常業務も止まっているため、負荷が重なります。移転後2週間は通常業務を減らす前提でスケジュールを組んでください。
まとめ
- 物件を決める前に、回線の種類・配管の空き・電源容量・工事可能時間・搬入経路を確認する
- ビル一括のインターネットが提供されていると、独自回線を引けないことがある
- 回線の手配が最優先。配管工事が必要だと3ヶ月以上かかる
- 旧オフィスの回線は移転後しばらく残す。並行期間の費用は保険と考える
- 社内周知は「移転します」ではなく、何がいつからいつまで使えないかを伝える
- 当日最多のトラブルはIPアドレス制限。取引先への変更依頼は1ヶ月前に出す
- 切り替え時は新旧両方のIPを一時的に許可してもらうとリスクが下がる
- 廃棄する複合機・NASはデータを消してから処分。委託なら消去証明書を条件にする
- 当日はネットワーク → 複合機・電話 → PC → 業務システムの順。最後は現場に触ってもらう
- 当日は複数名で対応する。一人だと深夜までかかる
- 最も危ないのは移転後1〜2週間。通常業務を減らす前提で計画する
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