SCS評価制度の対応費を2027年度予算に計上する方法|稟議の組み立てと積算根拠

「SCS評価制度への対応、来年度の予算にいくら積めばいいですか」

2026年の夏以降、この質問が増えています。多くの企業が予算編成に入る時期と、**SCS評価制度の申請受付開始(2027年3月頃の予定)**が重なるためです。

ところが、いざ予算を組もうとすると壁にぶつかります。制度費用(申請料・評価料)がまだ公表されていないのです。金額が分からないものを、どう稟議に書けばよいのか。

本記事では、未確定要素を抱えたままSCS対応費を予算化する具体的な方法を整理します。制度の内容そのものについてはSCS評価制度とはを、費用の内訳についてはSCS取得費用の内訳をあわせてご覧ください。

予算化を先送りすると何が起きるか

「制度費用が分かってから考える」という判断は、一見すると慎重に見えます。しかし実際には、次の順序で詰みます。

制度費用の公表は**2026年度下期(2026年10月〜2027年3月)**に予定されている評価用ガイド等と前後する見込みです。仮に2027年1月に公表されたとして、そこから予算を組むと、承認が下りるのは早くて2027年4月以降になります。

一方、★3の要求事項26項目は既に公開済みで、実装には数か月かかります。予算がついてから着手すると、申請受付が始まっても自社は動けません。

重要: 対策の中身はすでに確定しています。★3は要求事項26項目・評価基準81件、★4は43項目・153件がIPAから公開済みです。解説書を待たなければ実装できない、という状態ではありません。

つまり、予算編成のタイミングで動かないと、「制度は始まったのに自社は準備できていない」状態で取引先からの要求を受けることになります。

費目を4つに分けて積算する

SCS対応費を一本の「セキュリティ対策費」として計上すると、金額の根拠を説明できず稟議で止まります。次の4つに分解してください。

費目中身見積もれるか
① 対策実装費未対応の要求事項を満たすための機器・SaaS・構築作業自社で積算できる
② 文書化・確認費規程・手順書の整備、セキュリティ専門家による確認概算できる
③ 制度費用申請料・評価料(★4は第三者評価と技術検証の費用)未公表
④ 維持費ライセンスの年額、年次の見直し、★3は1年ごとの更新自社で積算できる

**①②④は自社の現状から積算できます。**未公表なのは③だけです。この構造を稟議書に明示すると、「分からないから概算」ではなく「3つは根拠があり、1つだけ枠取り」という説明になります。

① 対策実装費 ― ギャップ分析から積算する

もっとも金額が動き、もっとも根拠を示しやすい費目です。手順は次のとおりです。

  1. IPAが公開している要求事項・評価基準のExcelを入手する
  2. 26項目それぞれについて「対応済み/一部対応/未対応」を仕分ける
  3. 未対応の項目ごとに、必要な手段と費用を書き出す

すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceを使っている企業では、多要素認証やログ取得など、上位ライセンスに含まれているのに有効化していないだけという項目が少なくありません。この場合の追加費用はゼロで、必要なのは設定作業の工数だけです。

逆に、EDRやバックアップの見直しが必要な場合は、ライセンス費が継続的に発生します。この区別を稟議書で示せると、金額の説得力が一段上がります。

② 文書化・確認費 ― ★3は専門家確認が必須

★3は「専門家確認付き自己評価」です。セキュリティ専門家による確認が制度上の要件であり、社内に該当者がいなければ外部に依頼する費用が発生します。

規程・手順書の整備も、ゼロから作るのか既存文書を改訂するのかで工数が大きく変わります。ISMSやPマークを取得済みの企業は、既存文書の流用でかなり圧縮できます(SCSとISMS・Pマークの違い)。

③ 制度費用 ― 予備費として枠を取る

未公表のため、**「制度費用(申請料等):未公表につき予備費として計上」**と明記し、枠を確保しておきます。金額は総額の1〜2割程度を目安に置き、公表後に精算する前提とします。

★4を目指す場合は、第三者評価(実地審査)と技術検証が加わるため、★3より大きな枠が必要です。ただし**中小企業がいきなり★4を目指す必要は通常ありません。**取引先の要求水準を確認してください。

④ 維持費 ― 「取得して終わり」ではない

見落とされやすい費目です。★3の有効期限は1年(★4は3年)で、更新のたびに自己評価と専門家確認が必要になります。導入したSaaSのライセンス費も毎年かかります。

初年度費用だけで稟議を上げると、翌年に「聞いていない」と言われます。3年分のランニングを併記してください。

年度をまたぐ計上の考え方

申請受付が2027年3月頃であることを踏まえると、多くの企業では次の形になります。

時期やること計上する年度
2026年度下期ギャップ分析、対策実装、規程整備2026年度(実装費の大半)
2027年度初頭専門家確認、申請2027年度(確認費・制度費用)
2027年度以降維持運用、1年後の更新2027年度以降(維持費)

**実装費を2027年度に丸ごと寄せると、申請開始に間に合いません。**2026年度の残予算で着手できる部分がないか、先に確認することをおすすめします。特にライセンス設定の見直しなど、追加費用ゼロで進められる項目は予算承認を待つ必要がありません。

稟議で必ず聞かれる4つの質問

「これは義務なのか」

**義務ではありません。**SCS評価制度は任意参加の制度です。ここを曖昧にすると、後で信頼を失います。

そのうえで、**「取引先が調達条件に組み込んだ場合、実質的な参加条件になる」**と説明します。自工会・部工会のガイドラインが取引先に浸透している製造業などでは、既に類似の要求が来ているはずです(自工会・部工会ガイドラインとの対応関係)。

「やらなかったらどうなるのか」

取引の失注リスクを、具体的な取引先名と売上規模で示すのが最も効きます。「サプライチェーン全体のリスクが」といった一般論では動きません。

取引先から要求文書やアンケートが来ている場合は、**そのコピーを稟議書に添付してください。**これが最も強い根拠になります(取引先から要求されたときの対応)。

「なぜ今なのか。制度が始まってからでは駄目なのか」

前述のとおり、要求事項は公開済みで実装に数か月かかるためです。制度開始後に着手すると、取得完了はさらに半年〜1年先になります。

また、★3の要求事項の多くは**SCSのためだけの対策ではありません。**多要素認証、バックアップ、ログ取得、脆弱性管理は、制度と無関係にランサムウェア対策として必要なものです。「制度対応費」ではなく「セキュリティ投資で、副産物として制度にも対応できる」という整理のほうが通りやすい場合があります。

「ISMSを取っているのに、なぜまた費用がかかるのか」

ISMSはマネジメントシステムの認証、SCSは具体的な対策の実装水準の評価で、評価する対象が違います。ISMS取得企業は文書面で大きく有利ですが、技術的な対策項目は別途確認が必要です。

重複部分は流用できるため、**ゼロからの企業より費用は抑えられます。**この点を明示すると、「二重投資ではないか」という指摘に答えられます。

補助金を織り込む場合の注意

対策実装費には、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)やサイバーセキュリティお助け隊サービスなどの公的支援が使える場合があります。

ただし補助金は交付決定前の発注が対象外になるのが原則です。「予算が通ったので発注し、後から補助金を申請する」という順序では受けられません。予算計上の段階で、補助金の公募スケジュールと発注時期を組み込んでおく必要があります。

なお、中小企業が★3を取りやすくするための「サイバーセキュリティお助け隊サービス(新類型)」は、2026年8月時点で実証事業のフェーズにあります。正式な料金は未確定です(お助け隊サービス新類型の動向)。

予算書に書く一文の例

稟議書の目的欄に置く文章として、次のような書き方が使えます。

サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)★3の取得に向け、要求事項26項目のうち未対応項目の実装、規程整備、および専門家確認に要する費用を計上する。制度費用(申請料等)はIPAから未公表のため予備費とし、公表後に精算する。取得により、取引先○○社からの調達要件に対応する。

**「何を」「なぜ」「未確定部分をどう扱うか」**の3点が入っていれば、稟議は組み立てられます。

まとめ

  • SCS評価制度の申請受付は2027年3月頃の予定。多くの企業で予算編成期と重なる
  • 費用は①対策実装費 ②文書化・確認費 ③制度費用 ④維持費の4つに分解する。未公表なのは③だけで、残りは自社で積算できる
  • ③は予備費として枠を取り、公表後に精算する前提で稟議を上げる
  • 実装を2027年度に寄せると申請開始に間に合わない。2026年度中に着手できる部分を先に確認する
  • ★3の有効期限は1年。初年度費用だけでなく3年分のランニングを併記する
  • 稟議で効くのは一般論ではなく、取引先の要求文書と対象売上

自社の現状で何項目が未対応なのか、実装にいくらかかるのかは、ギャップ分析をしないと積算できません。予算編成に間に合わせるための現状把握からご相談いただけます。無料相談、または★3セルフチェックで対応状況の目安を掴むところから始めてください。

なお本記事は2026年8月9日時点の公表情報に基づきます。制度費用・申請方法・評価用ガイドは今後IPAから公表されるため、最新状況はSCS評価制度 最新動向まとめおよびIPAの公式サイトでご確認ください。

あわせて読みたい

Security365 — セキュリティ運用

脅威監視・アラート対応・ポリシー策定まで、月額定額でプロが支援。セキュリティ対策を「自分ごと」から「チーム体制」へ。

情シスのお悩み、ご相談ください

専門スタッフが貴社の課題に合わせたご提案をいたします。

メールでのお問い合わせはこちら →
60分無料相談