SCS評価制度の★取得を営業に活かす ― 表示の考え方と、提案書・チェックシートでの使い方
SCS評価制度の全体像については SCS評価制度 対策ガイド もあわせてご覧ください。
SCS評価制度の準備は、コストと工数のかかる取り組みです。だからこそ、取得した後にどう使うかを最初から設計しておくべきです。「取引先に求められたから取る」だけでは、投資は防御的なコストで終わります。
この記事では、★を取得した企業がそれをどう営業・採用・取引条件の交渉に活かせるかを整理します。あわせて、表示に関するルールが未確定である現時点での注意点も押さえます。
前提:表示ルールは運営規程で確定する
最初に重要な注意点です。★の表示方法(ロゴの有無、名乗り方、記載できる範囲)に関する詳細なルールは、運営規程等で定まる部分です。制度規程は2026年8月頃、申請方法は2026年10月頃の公表予定とされています(最新動向まとめ)。
したがって本記事の内容は、制度構築方針と一般的な認証制度の実務からの整理です。実際の表示にあたっては、公表される規程を必ず確認してください。
また、IPAのWebサイト掲載内容の引用については、出典を明記し、原文を維持し、変更した場合はその旨を明記するという条件のもとで手続き不要とされています。制度の説明を自社資料に転載する際の基準として押さえておきましょう。
取得情報は公表される
SCS評価制度では、★を取得した企業の情報が公表される仕組みが想定されています。取引先が「あの会社は★を持っているか」を確認できてはじめて、制度が物差しとして機能するためです。
これは自社が意図しなくても第三者から見えることを意味します。公表される情報の範囲は申請プロセスに関わる部分であり、申請プロセスと自己宣言書の書き方でも扱っています。逆に言えば、公表される場に載ること自体が営業的な価値を持ちます。
活用シーン1:セキュリティチェックシート対応の省力化
最も現実的で、金額換算しやすい効果です。
多くの企業が、取引先ごとに異なるセキュリティチェックシートへの回答に追われています。100問を超える設問に、担当者が数日かけて回答し、それが年に何社分も発生する——ITベンダーや部品メーカーでは日常的な光景です。
★を取得していれば、共通の水準として提示できる可能性があります。★4では取引先管理の要求事項として「重要な取引先を対象に年1回以上セキュリティ対策状況を確認する」ことが求められ、その方法として本制度の★取得状況の確認が例示されています。つまり、確認する側が★を使うことが制度上想定されているわけです。
チェックシートが完全になくなるとは限りませんが、「★3取得済み」を前置きしたうえで差分のみ回答する形に持ち込めれば、工数は大きく減ります(チェックシート対応の実務)。
社内での説明の仕方: 「年間◯社分のチェックシート対応に◯人日かかっている。★取得でその半分が削減できれば、◯年で投資を回収できる」という試算は、経営層に最も伝わる論法です。
活用シーン2:提案書・入札での差別化
提案書に記載する場合、「★3を取得している」という事実だけでなく、それが何を意味するかを1〜2行添えると効果が上がります。制度が浸透するまでは、読み手が★の意味を知らない可能性が高いためです。
記載例:
情報セキュリティ体制 当社は経済産業省・IPAのSCS評価制度において★3の評価を取得しています(取得日:20XX年X月/有効期間:1年)。同制度は、企業のサイバーセキュリティ対策の実装状況を7つの領域から評価するもので、★3は基礎的な防御と体制整備の実装をセキュリティ専門家の確認を経て示すものです。
ポイントは3つです。
- 取得日と有効期間を明記する(★3は1年、★4は3年)
- 制度の説明を添える(読み手が知らない前提で)
- 誇張しない(「国から認定された」等の表現は制度の性質と異なります)
政府調達・自治体調達での扱いは未確定ですが、要件化される場合に備えて、提案書のテンプレートに欄を用意しておくと、いざというときに慌てません(政府調達への組み込みロードマップ)。
活用シーン3:既存取引先への説明
取引先から要求されて取得した場合は、取得の報告そのものが接点になります。
- 担当者経由で報告するだけでなく、先方の調達・情報システム部門にも共有する
- 取得の範囲(評価範囲)を明示する。どの拠点・どの事業が対象かは、先方が最も知りたい情報です
- 有効期間と更新予定を伝える。★3は毎年更新のため、継続の意思を示すことに意味があります
インシデントが起きた場合の報告体制も併せて伝えられると、信頼の質が変わります(インシデント発生時のSCS評価への影響)。
活用シーン4:新規開拓での「入口」
セキュリティ水準を理由に商談が止まるケースは、大企業との取引では珍しくありません。特に、顧客のシステムに接続する必要がある事業(保守、開発、物流のシステム連携)では、セキュリティ審査が最初の関門になります。
★を持っていれば、その審査の初期段階を通過しやすくなります。取引の可否を左右する場面で効くという意味では、営業ツールというより参加資格に近い性質です。
活用シーン5:採用・与信
副次的ですが、実際に効果が報告されている領域です。
- 採用:情シス・セキュリティ人材の採用時、「セキュリティに投資している会社」という事実は候補者の判断材料になります
- 与信・保険:サイバー保険の引受条件や保険料の算定において、セキュリティ対策の実施状況が考慮される場合があります
これらは主目的にはなりませんが、投資判断の材料としては加算できます(早期取得のメリット)。
やってはいけない使い方
制度の信頼性を損なう表示は、自社の信用にも跳ね返ります。以下は避けてください。
| NG | 理由 |
|---|---|
| 「国の認定を受けたセキュリティ企業」 | 制度は評価の物差しであり、企業を認定する制度ではありません |
| 有効期間切れのまま表示を継続 | ★3は1年。更新を怠った状態での表示は虚偽表示になり得ます |
| 評価範囲を超えた表示 | 一部事業所で取得したのに全社で取得したかのような表示は誤認を招きます |
| 「取得しないと取引できない」と取引先に説明 | 制度は任意です。経産省・NCOが不適切な勧誘として注意喚起しています(注意喚起の解説) |
| 他社の★取得状況を根拠に自社サービスを売り込む | 制度の趣旨から外れます |
特に最後の2つは、支援サービスを提供する側にも当てはまります。★を売り文句にする側になったとき、注意喚起の対象にならないかを常に確認してください。
更新を前提とした運用設計
★3の有効期間は1年です。取得したまま更新を忘れると、表示を続けられなくなります。
- 更新時期を社内カレンダーに登録する(有効期限の3か月前にアラート)
- 提案書テンプレート・Webサイト・会社案内など、★を記載した箇所の一覧を作っておく
- 更新できなかった場合に表示を外す担当者を決めておく
意外に手間がかかるのがこの「記載箇所の一覧」です。更新のたびに全社の資料を探し回らないよう、最初に一覧を作っておきましょう(取得後の維持・年次更新ガイド)。
情シス365による支援
情シス365では、取得後の活用まで含めて支援しています。
- 取得情報の整理: 評価範囲・有効期間・更新時期を、対外説明に使える形に整理
- 提案書・会社案内への反映: 誇張のない、伝わる書き方の設計
- チェックシート対応: ★を前提とした回答テンプレートの整備
- 更新管理: 有効期限の管理と、年次更新の実務支援
まとめ
- 表示ルールは運営規程で確定する(制度規程は2026年8月頃、申請方法は2026年10月頃の公表予定)。公表後の確認が前提
- 最も金額換算しやすい効果はセキュリティチェックシート対応の省力化。★4では確認方法として★の取得状況が例示されている
- 提案書には取得日・有効期間・制度の説明をセットで書く。読み手は制度を知らない前提で
- 大企業との新規取引では、営業ツールというより参加資格として機能する
- 誇張表示は自社の信用を毀損する。「国の認定」「取らないと取引できない」は使わない
- ★3は有効期間1年。記載箇所の一覧を作り、更新管理とセットで運用する
参考リンク: